シンガポール国立大学(NUS)リー・クアンユー公共政策大学院の「アジア地政学プログラム」は、日本や東南アジアで活躍するビジネスリーダーや官僚などが多数参加する超人気講座。同講座を主宰する田村耕太郎氏の最新刊、君はなぜ学ばないのか?』(ダイヤモンド社)は、その人気講座のエッセンスと精神を凝縮した一冊。私たちは今、世界が大きく変わろうとする歴史的な大転換点に直面しています。激変の時代を生き抜くために不可欠な「学び」とは何か? 本連載では、この激変の時代を楽しく幸せにたくましく生き抜くためのマインドセットと、具体的な学びの内容について、同書から抜粋・編集してお届けします。

思考力を鍛えるためにおススメしたい、最高の頭のトレーニングとはPhoto: Adobe Stock

批判的思考だけではダメ

 ニュースを見るたびにキャスターや解説者、そして批判対象となっている政治家や経営者、芸能人に対して、我々自身が批判的になることが多々ある。

 もちろん、批判的に思考することは、とても大事である。

「批判」イコール頭脳を使っているということで、妄信や従順は、思考停止の状態と同じだ。

 しかし、単なる思考よりももっと学びになり、かつ問題解決により有効なものをご存じだろうか?

 それは、「ロールプレイ(役割を演じること)」である。

 自分の立場から批判的に思考することは、思考の第一段階としてはいい。

 しかし、その自分さえも批判的に思考できるのが、ロールプレイの凄いところだ。

 自分にも相手にもなりきることで、自分も相手も知ることができるのだ。

ウクライナ戦争を題材に考えてみると…

 例えば、ウクライナ戦争を考えてみよう。

「戦争反対」「戦争やめよ」と叫ぶ気持ちはわかる。私も、人が死ぬのはもう見たくない。

 しかしながら、もしあなたがプーチン大統領だったら、いま戦争を止める選択肢はあるだろうか?

 確かに、多くの専門家が言うように、ウクライナやNATO(北大西洋条約機構)やアメリカを甘く見て、自国の戦力を過信して、「二週間で首都キーウを攻略してゼレンスキー大統領を確保、または殺害することができる」と踏んだ、プーチン大統領の戦争開始直前の見方が甘かったのかもしれない。

 しかし、この原稿を書いている段階で、戦争を始めて3年以上が経過して、戦争はまだ継続中である。

 ここで、プーチン大統領が戦争を止める選択肢は、本当にあるだろうか?

 もし、戦争を止めたら、彼の立場は、ロシア国内でどうなるのか?

 ロシア国内での彼の立場は、非常に危うくなる可能性が高いだろう。

プーチン大統領が戦争を止めたら、
どうなるか?

 今の段階でプーチン大統領が戦争を止めてしまうと、これまで出した莫大な人的・経済的損失が正当化できなくなる。

 そうなれば、国民の不満の矛先は、一気にプーチン大統領に向かうだろう。

 プーチン大統領にとって、クリミア半島に加えて東部・南部の4州を完全制圧することはマストである。

 彼はロシア憲法を変えて、それらの地域をロシア領と認定した。クリミア半島、および東部南部4州の完全制圧をあきらめることは、国内で大きな反発を招く。

 プーチン大統領は、この戦争の目的を「非ナチ化」「非軍事化」「中立化」の3つとしている。これらが未達成のまま戦争を終結することも、国内で大きな反発を買うだろう。

 加えて、プーチン大統領には、ICC(国際刑事裁判所)から逮捕状が出ている。ここで戦争を止めたら、彼の国際的な立場はどうなるだろうか?

戦争を始めた当事者たちの身になって
考えてみる

 では、ゼレンスキー大統領が今戦争を止めたら、彼の立場はどうなるか?

 多くの国民が戦争指導者として彼を支持しており、戦争を止めると大きな支持を失う可能性が高い。

 また今、戦争を止めてしまうと、ロシアが憲法で占有を宣言した4州を失う可能性があり、それは今まで莫大な人的・経済的損失を受け入れてきたウクライナ国民からは、到底容認されないだろう。

 私は、戦争は嫌いだし、平和が好きだ。人が死ぬのは見たくない。

 しかし、戦争をすでに始めてしまった当事者たちの身になってみたら、「戦争は止めてくれ」というのが、受け入れ可能な現実的な提言とはいえないことが、わかっていただけるだろうか。

(本稿は君はなぜ学ばないのか?の一部を抜粋・編集したものです)

田村耕太郎(たむら・こうたろう)
シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院 兼任教授、カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル・リーダーシップ・インスティテュート フェロー、一橋ビジネススクール 客員教授(2022~2026年)。元参議院議員。早稲田大学卒業後、慶應義塾大学大学院(MBA)、デューク大学法律大学院、イェール大学大学院修了。オックスフォード大学AMPおよび東京大学EMP修了。山一證券にてM&A仲介業務に従事。米国留学を経て大阪日日新聞社社長。2002年に初当選し、2010年まで参議院議員。第一次安倍内閣で内閣府大臣政務官(経済・財政、金融、再チャレンジ、地方分権)を務めた。
2010年イェール大学フェロー、2011年ハーバード大学リサーチアソシエイト、世界で最も多くのノーベル賞受賞者(29名)を輩出したシンクタンク「ランド研究所」で当時唯一の日本人研究員となる。2012年、日本人政治家で初めてハーバードビジネススクールのケース(事例)の主人公となる。ミルケン・インスティテュート 前アジアフェロー。
2014年より、シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院兼任教授としてビジネスパーソン向け「アジア地政学プログラム」を運営し、25期にわたり600名を超えるビジネスリーダーたちが修了。2022年よりカリフォルニア大学サンディエゴ校においても「アメリカ地政学プログラム」を主宰。
CNBCコメンテーター、世界最大のインド系インターナショナルスクールGIISのアドバイザリー・ボードメンバー。米国、シンガポール、イスラエル、アフリカのベンチャーキャピタルのリミテッド・パートナーを務める。OpenAI、Scale AI、SpaceX、Neuralink等、70社以上の世界のテクノロジースタートアップに投資する個人投資家でもある。シリーズ累計91万部突破のベストセラー『頭に来てもアホとは戦うな!』など著書多数。