20世紀に入り、第一次、第二次世界大戦で戦ったドイツは明らかにロシアより格上でした。そして東西冷戦において、アメリカの軍事力・経済力・科学技術力はロシアを上回っていました。
真っ向から戦うと苦戦するのは目に見えているので、ダメージリミテーション(損害限定)を図らなければいけない。つまり、戦う前に相手の戦力を削ぎ、こちらが被るであろうダメージを低減しようと考える。そのため、先制攻撃を重視するのではないでしょうか。
不都合なことが起きただけで
宣戦布告されたと錯覚する
小谷:戦略的劣勢を覆すためには先に相手を叩くのが合理的、というわけですね。
小泉:ええ。この先制攻撃重視の考え方が、冷戦後のロシアの置かれた環境と“悪魔合体”しているのではないかと思うんですよ。
まず前提となるのは、ソ連崩壊後のロシアでは世の中の不都合な出来事を「西側の陰謀」として説明する言説がかなりの影響力を持ってきたということです。
政権を批判するテレビ局は西側の手先だ、反汚職デモは西側から金をもらった連中がやっているんだ、という具合ですね。イーゴリ・パナーリンみたいなKGB出身のコメンテーターがこういう話を本やテレビで広めていった。
しかし、こういう目で冷戦後の世界を見ていくととんでもないことになります。たとえば旧ソ連の国でロシアにとって都合のいい政権が倒れる。これも西側の陰謀だとなると、ミサイルや大砲を撃っていないだけで事実上の戦争を仕掛けられたようなものだと認識されてしまう。
政権もそういうふうに言っておいたほうが格好がつくから、陰謀論を後押しするようなことを言う。
小谷:ロシアからの視点で見れば、「我々が西側から攻められている」ということなのでしょう。
暴走した被害者意識が
ウクライナ侵攻を生み出した
小泉:そうしたなかで、2014年にはウクライナで政変が起きます。ロシアの後押しを得て2010年の選挙に勝利したヴィクトル・ヤヌコヴィッチ大統領が、市民の抗議デモで失脚するという事件、いわゆる「マイダン革命」です。EUとの連携協定を結ぶはずだったのに、ロシアからの圧力でヤヌコヴィッチが突然翻意し、これに国民が激怒したという構図ですね。







