ロシアが自国の領土に攻め込まれた場合の必勝法は、縦深性を利用して時間を稼ぎながら冬将軍の到来を待つというものです。これには名将ナポレオンもヒトラーのドイツ軍もかないませんでした。
小泉:そういった地政学的な発想と、大陸国家ならではの思考がある気がします。
当たり前のことですが、大陸上では目に見えて国境が引かれているわけではなく、境界線は曖昧です。実際にロシアと周辺国との国境付近を訪れてみても、ただそこには自然が広がっているだけ。国境標柱があったり兵隊が常駐したりしているために、かろうじて国境を認識できるにすぎません。
そのため、自国のパワーが強くなれば外へ拡大し、逆に弱くなれば隣接国が拡大してくる。「国境は仮のものにすぎない」という感覚が、ロシア人に限らず大陸に住む人間には強いのではないでしょうか。
小谷:海洋国家である日本、アメリカ、イギリスとは根本的に異なる部分ですね。
度重なる紛争を経験した
ロシア人にとって「国境は動くもの」
小泉:加えて近代はロシアの国力が伸びた時代なので、領土が拡大していくことが自明視されました。ロシア革命では領土を大幅に失ったけれども、ソ連邦の成立によって中央アジアやコーカサスを取り戻し、第二次世界大戦後は中東欧を共産化して勢力圏に収めた。これが近代史におけるロシアの絶頂でしょう。
しかし、1980年代に入ってソ連の国力が衰えると中東欧の共産主義政権は軒並み倒れて西側に流れてしまい、1991年にソ連自体が崩壊するとバルト三国、ベラルーシ、ウクライナも失って「ロシア」の範囲は一挙に縮小してしまう。ですからロシア人の意識のなかでは、国境は「動くもの」だと思うのです。
小谷:現代の若い世代のロシア人もそういった意識を持っているのでしょうか。
小泉:インテリであればあるほど、「現在の押し込まれた不利な国境をなんとかしなければいけない」と、ある種の使命感をもって考えているのではないでしょうか。







