だから「ユーロマイダン」という言い方もします。ちなみにこのとき、首都キーウを逃れてきたヤヌコヴィッチを救出したのが、デューミン(編集部注/アレクセイ・デューミン。もともとは軍人だったが、KGB第9総局の後継機関である連邦警護庁に入り、首相時代のプーチンのボディガードを務めていたとされる)ではないかと言われています。

 それはともかく、ロシアの言論空間にでき上がったプリズムを通してみると、ロシアは西側からずっと攻撃を受けている。メディアや反体制派を通じて内政干渉を受け、友好国では政権転覆を起こされ、いずれロシアの主権も危うくなる、と見える。

 だから先制的に危機を除去する必要があるのだ、という議論が2010年代以降のロシア軍内部ではなされてきました。マイダン革命に対してロシアがクリミア半島の「併合」やドンバス地域への軍事介入を行なったのは、こういう論理に基づくものでした。

 また、2022年にウクライナに侵攻する際にもプーチン大統領は、ウクライナが「反ロシアの基地」にされようとしているから「先制的自衛」措置を取るのだという論法を用いています。

情報戦や策略で優位に立った後に
軍事攻撃を仕掛けるのがロシアのやり口

小谷:被害者意識が強いのですね。ちなみに、この2014年のクリミア併合では、全体の8割近くが情報戦で占められ、結果、ロシアの占拠作戦は無血のうちに終結します。非軍事手段と軍事手段を組み合わせた手法は以後、欧米では「ハイブリッド戦争」と呼ばれます。

 従来の「相手の機密情報を秘密裏に入手し、相手に悟られないように政府機関や軍事作戦外交や軍事作戦に利用する」という情報戦は、二度の世界大戦によって確立されます。

 その後、2013年にロシア軍事参謀総長のワレリー・ゲラシモフが「新しい戦争」について論じていて、「非軍事手段と軍事手段の割合は4対1で使用されるべきだ」としている。非軍事手段とはサイバー攻撃、情報インフラの破壊、偽情報の流布などを指し、これによって事前に優位を確立したうえで軍事力を行使するというのです。この考えが実践されたのが、クリミア併合でした。

小泉:元ウクライナ安全保障会議書記だったヴォロディミル・ホルブーリンは、ロシアのハイブリッド戦争の本質はたんなる「手段の組み合わせ」にあるのではないと言います。