ハイブリッド戦争はロシアが旧ソ連諸国への軍事介入を可能にする方法として編み出されたものであって、冷戦後に勢力圏を縮小され続けたことに不満を募らせたロシアによる「地政学的リベンジ」である、と。
欧米諸国に比べて国力が劣るロシアは、正面切って欧米諸国と対峙することはできない。そのため、ロシアが利用可能なローコストでローテクな手法によって、欧米諸国と直接対決することなく、旧ソ連諸国への介入を果たすのだというわけです。
要は、ロシアは「自らは弱い」と認識しています。そこから「我々は弱い。やられっぱなしである。だから逆に攻撃に出なければいけない」という意識が出てくる。「被害者意識」と「自身は弱者である」という自己認識が、先制攻撃重視の思想に拍車をかけているように思えます。
己の弱さを知っているからこそ
広い国土が必要になる
小泉:ロシアの軍事思想についてもう1つ言えば、「一度前に出たら、よほどのことがない限り引かない」ことです。
小谷:「陣地を必ず死守せよ」となりますね。「後退したら撃つぞ」という督戦隊が後ろに控えているので、前進するしかないのです。味方に背後から撃たれるかもしれないわけで、悲惨な戦い方ではありますが。
小泉:戦術局面で引くことはあるのですが、戦争の結果として領土を放棄した事例は近代史上ないのではないでしょうか。あるとすれば、体制崩壊によるものでしょう。ポーランド、フィンランド、バルト三国などの独立はいずれも、ロシア革命によるものです。このうちのバルト三国はモロトフ=リッベントロップ協定の秘密議定書でソ連にまた併合されてしまい、独立を回復できたのはソ連崩壊によってでした。
小谷:ロシアが領土にこだわるのは、戦略的縦深性(敵の攻撃を受けた際の防御や反撃を行なうための空間的・時間的余裕)を担保したいからですね。多少攻められて仕方なく下がるといった戦略的撤退をするためには、領土は広いほうがいい。だから外へ外へと広がっていく。







