ここで太郎の人間力が発揮される。アメリカほか大手企業の横暴なビジネスに、嫌気がさしていた産油国のトップは、人好きのする太郎の人格に魅了された。「太郎の国となら、契約してもいい」と、初のディールを交わすことになった。日本は、ついに石油採掘権を獲得したのだ。

 太郎たち日本企業は1回目のボーリングで油田を掘り当てた。井戸の産出量は1日1000キロリットル。当時の日本国内の油井3500本に相当する、大収穫だ。

 太郎が掘り当てた石油の利益は、第二次大戦後の、高度経済成長の礎となっただろう。太郎の挑戦は高く評価され、「アラビア太郎」の尊称を得ることになった。

 あり金を使いきり、石油王となった日本人の物語は、いまでもアラブ諸国で語り草となっている。

 もし太郎が、少しでも「貯金信仰」の持ち主だったら、破天荒な軌跡はあり得なかった。後世に生きる僕たちの生活水準も、ひどく貧しいものになっていたのではないか。

「貯金」で幸福は得られない
ホリエモンが出した答えとは?

 ひとりの男の、金にとらわれない人生が後の日本人の生活を豊かにした。そんな奇跡は、誰にでも起こせるはずだ。昭和の快男児「アラビア太郎」の人生から、学べることは少なくない。

 どのような趣味でも、どのような挑戦でも、投じる金を惜しまず、好きに生きていくのが人の幸せなのだ。その幸せは、いつか日本中の幸せになるかもしれない。

『あり金は全部使え』書影『あり金は全部使え』(堀江貴文、マガジンハウス新書)

 僕は多くのビジネスを手がけながら、HIU(堀江貴文イノベーション大学校)をはじめ、音楽フェスやミュージカルなど、多様なトライアルの場をプロデュースしている。太郎が成し遂げたようなミラクルを、いまの僕たちの手でも実現したい。何でもあり、何でもOK!だが、「貯金信仰」だけはNGだ!

「貯金信仰」で幸せに満たされている人を、僕はこれまでの人生で、ひとりも見たことがない。今後もないと自信を持って言える。貯金は最後には、日本政府に吸いあげられる、寂しい結末しかないのだ。あり金は全部使え!

 歴史の成功者たちの汗まみれの記録が、それを正解だと裏づけている。貯金を投じれば、いつか「○○太郎」のように通称で呼ばれるような経験を、史実に残せるかもしれない。お金と、どっちが残す価値のあるものか?答えはもうわかっているだろう。