今回の提携についてディズニーがどこまで研究していたのかはつまびらかではありませんが、結果的に引き起こされることは日本が誇る漫画の世界の「同人誌」と類似した経済効果を引き起こします。

 日本の漫画業界では著作権を本来侵害するはずの同人誌的な二次創作を容認しています。ファンたちは自分が推す漫画のキャラを主人公にした独自の漫画を創作してファン同士、仲間内で見せ合うことから始まって、コミュケが誕生し、自費出版物が頒布されるようになります。同人誌の世界は一大サブカルチャー領域に発展するまでになりました。

 出版業界の公式見解では同人誌は商業出版ではないとされ、一般の書店流通に乗らないことから、ファンの間の表現共有や趣味活動としてグレーゾーンだけれども認めてきたのです。政府もこれを「草の根の創作文化」「マンガ・アニメ産業の基盤」と評価して、あえて著作権をたてにした規制は控えてきました。

 ディズニーは秘密主義なので今回の戦略の背景を語ることはないと思います。しかし、仮に彼らが日本のサブカル市場を深く研究していたとしたら、推しが生まれ、キャラが育ち、作品の価値がたかまり、広い裾野で作家の予備軍が育つというこの世界のプラスの効果を認識したはずです。

 実際、今回の業務提携の契約内容は、その後に起きる効果が同人誌市場と似たものになるように組み立てられています。確認してみましょう。

アラジンとアリエルが
共闘して海賊を退治

 まず生成AIが過去のディズニー作品を学習できない点ですが、これは同人作家が本家のプロの漫画家からテクニックを教わるわけではないことと同じ効果があります。本家の作家と同じ画力で二次創作作品が発表されると本家の作風を侵食することが懸念されます。それがこの契約で抑止されます。

 仮にこの逆で、両社の契約で学習が容認されてしまった場合、それほど遠くない未来に生成AIはディズニー映画のシナリオの作られ方、キャラクターの創造の仕方、音楽の作り方、演出の方法、特殊効果の使い方などをすべて理解し模倣するようになるでしょう。そうなると素人が生成AIを使って生み出す動画はプロが制作する領域を侵しはじめます。今回の契約はそこは禁止しているのです。