ディセンティス駅にて。「箱根登山電車」と書かれた機関車Ge4/4II型 Photo by Koji Kitajima
スイスのアルプス地方を東西に結ぶ「氷河特急」は、美しい山の景色を眺めながら本格的な食事を味わえることで世界中の旅行者から人気だ。昨年9月にスイス政府観光局の招待で乗る機会を得たのでリポートする。氷河特急は、実は日本の企業と提携している。関係者への取材で、日本初の山岳鉄道の歴史的秘話を聞いたので紹介したい。(航空ジャーナリスト 北島幸司)
スイス氷河特急と箱根登山電車
「山岳鉄道の絆」をたどる旅
スイスの氷河特急(Glacier Express、レーティッシュ鉄道)は「世界一遅い特急列車」として知られる観光列車で、ツェルマットからサンモリッツまでの291㎞を約8時間かけてアルプスの絶景を巡る。今回の旅は、スイス東部のクール駅からスタートした。
深紅の鮮やかな車体は、発車前から旅人を高揚させる存在である。パノラマ車両のガラスには昼の明るい光が差し込み、最大4人が向かい合わせに座る席のテーブルには、すでに白いテーブルクロスとカトラリーが整えられ、乗客をもてなす準備が整っていた。
車窓から眺める景色は発車直後から美しい。クールの旧市街を抜けると視界は一気に開け、ライン川が白い流れを描く。列車が高度を上げるにつれ、牧草地で牛が草を食んでいるかと思えば一転、岩肌が迫る険しい谷の表情へと変化していく。その変化のテンポは早すぎず遅すぎず、ちょうどいい。見どころは標高2000mを超えるオーバーアルプ峠まで続いた。
目的地となるアンデルマットまでの2時間半、昼のコース料理を楽しむことができた。この日のメニューは「チキンフリカッセ」という鶏肉のマッシュルームソース添え。雪の残る山稜を見ながらの温かい料理に和んだ。車窓の絶景と皿の色彩が調和し、まるで移動式の高級レストランにいるかのような気分だ。
氷河特急の車内では温かい食事を取り分けてくれる Photo by Koji Kitajima
スタッフは走行中の揺れをものともせず、手際よく大皿から料理の盛り付けを行う。その安定した所作は、スイス鉄道の伝統と誇りを象徴しているかのようだ。
景色を眺めているとカーブ毎に、客車を引っ張る先頭列車(機関車)の車体に漢字が見え隠れする。その正体が、途中のディセンティス駅で判明した。車体に「箱根登山電車」と大きく書かれていたのだ。
ライン川沿いを走る氷河特急。先頭列車(機関車)の車体に漢字が見え隠れする Photo by Koji Kitajima
日本の名前が、まさかこんなところで見られるとは……日本人として嬉しくなった。帰国後、この謎について取材することにした。







