「もし長時間の残業をさせる企業があれば、企業にとって必要な優秀な若者は即辞めて、待遇の良い別の企業に行ってしまいます。企業もそれをわかっているから、多くの若者は皆、夕方の6時には帰ってしまいますよ」と言っていた。

ブラック企業をなぜ辞めない?
若者が耐え忍んでしまうワケ

 残業手当不払いや超過勤務は絶対に許されない、という社会の合意ができれば、状況は変わっていく。だが日本人はほぼ9割耐えてしまうから、現状はなかなか変わらない。日本人の忍耐強さという美徳の証明でもあるが、“忍耐”含め、個人の責任となっている部分が気にかかる。

 なぜ、日本の若者たちはこれほどまで忍耐強いのか。あるいはあきらめが早いのか。時に思考を止めてしまっているようにすら見えるのは、なぜなのか。

 私はその理由を、「やり直しがきかない社会だから」だと思っている。少なくとも、若者はそう思い込んでいる。実際、私の教え子の中には、新卒で就職した企業を1、2年で辞め、やりがいのあるホワイト企業に転職を果たした者も少なくない。むしろ最初にブラックな企業を経験したことで、次に選ぶ時の目が鍛えられたとも言える。

 だが、日本がやり直しが困難な社会であることは間違いない。例えば、ブラック企業に勤めてしまった場合、辞めるか耐えるかは本人の判断に委ねられている。国家や社会の側に、個人を支える仕組みが十分に整っていないからだ。労働問題に関して言えば、制度の整備も対処のスピードもあまりに遅い。

 例えば、職場でパワハラやセクハラなどの問題が発生した場合、個人が勇気を出して訴訟に持ち込んだとしても費用や時間がかかりすぎる。結局、裁判に勝っても心身はすり減り、コストもかかり、下手をすれば、社会的信用も落とすかもしれないのだ。社内で「あいつは大げさなんだ」と言われて孤立させられ、職場に居づらくなることもあるだろう。

 世の中に「制度」は存在するが、実際には使えないものが多すぎる。有休制度や育児休業制度などが、その最たる例だろう。会社に制度はあっても、取得できるかどうかは個人や上司、企業の裁量に任されている。