中間層の高齢者に
立ちはだかる壁

 先日、とある地の「シルバービレッジ」を授業の一環で学生と見学した。敷地全部が高齢者向けの設備として美しく整えられ、緑豊かなガーデンもある。共用施設では近所の幼稚園生たちとの交流会も行われていた。介護が必要な人も、比較的介護度が軽い人もいるが、個室でゆったり老後を過ごせる理想的な環境である。しかし、入居のための一時金が2000万円と聞いて、驚いた。まさに「老後資金2000万円」の数字が頭をよぎった。言うまでもなく、こうした恵まれた環境で老後を過ごせるのは日本人の中でもほんの一握りだ。行き場がなく苦労するのは“中間層”の高齢者である。

 介護保険制度の導入以来、日本では地域包括ケアシステムの構築が進み、「医療」「介護」「予防」「生活支援」「住まい」を一体的に提供することが推奨されていった。高齢者が住み慣れた地域で、自立生活を営むための支援体制が組まれていったのだ。

 もちろん、住み慣れた地域で老後も暮らせることは理想的だろう。だが、問題はここでも「家族」ありきが前提になっている点だ。基本的に家族(主に女性)が高齢者の住まう住居を整え、身の回りの世話をして、地域医療と連携を取り、介護の体制を整えていく。だがそれは決して片手間にできる作業ではない。各種の連絡や手続き、スケジュール調整や万が一の対応などが「家族」に大きくのしかかる。

 それを外部に委託するには高齢者施設という選択肢があるが、ここに立ちはだかるのが経済的な壁だ。民間のケア付き施設は入りやすいが料金が高い。かといって公的な老健や特養は安いが、要介護度が高くないと入れない。要介護度が高くても、入居待ちの人がたくさんいる地域もある。高齢化の進行によって、待機者はますます増えるだろう。自分や家族の経済力が中間層の高齢者は、やはり家庭で介護をするしかなくなってしまう。それが日本の介護保険制度の実態である。