「娘は働き盛りで忙しいから、もう一度子育てのやり直しだよ。日々奮闘している」

 と言っていた。孫は可愛い。だが、「孫は来てよし、帰ってよし」という言葉もある。いくら育児の経験者でも、日々老いていく体には負担も大きい。孫を抱っこして腰を痛めて寝込んでしまったというような話も聞く。

 そして近年、大きな社会問題としてクローズアップされている「8050問題」(編集部注/80歳代の親と50歳代の子どもの組み合わせによる生活問題)も見逃せない。「老いた子を見放せないリスク」である。内閣府の調査(2022年)によると、15~64歳の引きこもり状態の人は全国で推計146万人にのぼる。そのうち約半数の85万人は、なんと40歳から64歳までの中高年層である。彼らを経済的に支えているのは、現在70代から90代までの親世代である。高齢の親が自らの資産や年金を切り崩しながら、中高年の“子ども”を養い続けている。まさに「家族のリスク」が極端な形で表れている。

希望でもあり不安でもある
人生後半の“生きがい”探し

「収入と支出のバランスリスク」も無視できない。かつては「定年退職後に、優雅に夫婦で海外クルーズを楽しむ」といった老後の理想像が語られたものだが、それはせいぜい80歳くらいに人生を終えるだろうという前提でのプランだった。長寿化が進む今、5年、10年先どころか20年、30年先も生きているかもしれない可能性が濃厚になってきている。そのため資産の使い方には慎重にならざるを得ない。「ずっと働いてきたのだから、少しの贅沢くらい……」という気の緩みが、将来の決定的な痛手になるかもしれないと思えば、キャッシュフローは複雑化する。

 最後に、「生きがいのリスク」もある。何もしないで生きるには、100年はあまりに長すぎる。では何をするか。誰と過ごすか。どこで時間を費やすか。人生後半の“生きがい”探しは、希望にもなりうるが、人によっては不安のタネにもなりうるだろう。

 若い頃には社会的ポジションで人が集まってきたかもしれない。会社での地位、稼ぎ、子どもが学校にいればそこでの交流もあったろう。だが、そうした属性は、人生の第二ラウンドでははぎとられる。何者でもないところから、新たにコミュニケーションを始めなくてはならないのだ。人が敬ってくれる肩書はない。人間力こそが、高齢者が得るべきスキルなのではないだろうか。