介護離職者は毎年約10万人
企業経営に多大な影響

――どのような背景で、改正・施行されたのでしょうか。

 今回の改正の背景には、深刻化する介護離職の現状があります。総務省の調査によると、家族の介護や看護を理由とする離職者数は毎年約10万人に上っており、特に40代後半から60代の管理職やベテラン社員層に集中しています。これらの世代は企業にとって中核人材であり、その離職は企業経営にも多大な影響を与えます。

 一方で、家族の介護・看護をしながら就業している人は約365万人存在し、この数は近年増加傾向にあります。介護と仕事の両立は、もはや特殊な問題ではなく、多くの労働者が直面する可能性のある課題となっています。

 ところが、制度の利用状況を見ると、介護をしている雇用者を100%とした場合、何らかの両立支援制度を利用した人は約11.6%にとどまり、介護休業制度に至ってはわずか1.6%という低い利用率となっています。

 利用率の低さには、三つの要因があると考えています。まず、そもそも制度を知らないという認知不足の問題。そして、制度の存在は知っていても、どう使ったらいいか分からないという理解不足の問題。最後は、制度があることを知っていても、職場の雰囲気によって使いにくいという環境の問題です。

 介護離職した方にどういう支援が必要だったかというアンケート調査を行ったところ、「離職前に支援制度について知らせてほしかった」という回答が多く寄せられました。「そんな制度が使えるなんて知らなかった。使えていれば仕事を継続できたかもしれない」という声は、労使双方にとって大変不幸な状況です。

 介護は突然やってくるものです。事前の準備や心構えがないまま介護に直面すると、パニックになってしまい、適切な判断ができなくなる可能性が高いのです。

 さらに介護は、育児と比べて、職場で言い出しにくいという特徴があります。妊娠・出産の報告は概して明るい話題と捉えられることが多いですが、介護の場合は必ずしも明るい話題ではないため、職場でオープンにしにくく、支援を求めることをためらう傾向があります。

 こうした状況を改善し、介護離職を防止するためには、両立支援制度に関する認知度を高めるとともに、制度を利用しやすい職場環境を整備することが喫緊の課題となっていました。そこで、制度を知らないまま離職に至ることを防ぎ、介護に直面しても働き続けられる環境を整備するため、今回の法改正に至ったのです。

――厚生労働省のホームページには、介護休業制度を平易に説明するマンガや動画がアップされています。一般の人には、とても親しみやすく、分かりやすい内容になっています。今回の改正も、制度浸透に向けての工夫などがあるのでしょうか。

 育児・介護休業法に関しては、ご指摘のようなマンガや動画といったツールも活用しながら、分かりやすい制度周知・広報に努めてきました。今回の制度改正に当たっても、専用リーフレットの作成や特設サイトへの解説の掲載、政府広報を通じた地下鉄の車内広告の掲載など、さまざまな取組を行っています。

>>厚生労働省 雇用環境・均等局 職業生活両立課 課長補佐 有瀧悟史氏インタビュー(第2回)へ続く