超高齢社会の日本。仕事と介護の両立が喫緊の課題になっている。家族の介護・看護をしながら働く人は約365万人となる一方、仕事との両立が困難となって離職する人は年間10万人を超える。こうした人々を支援するための育児・介護休業法は施行して30年以上経つが、介護では制度利用が低率。原因となる制度認知の低さ等を解消すべく、支援制度の説明・周知にマンガや動画を活用したり、2025年4月には法改正されて企業に対して労働者への個別周知・意向確認等を義務付けたりしている。制度を生かして介護離職を防止することは経営者や管理職、人事部はもちろん、すべてのビジネスパーソンにとって大切だ。そのための政策や施策について、厚生労働省の担当官に聞いた。3回の連載でお届けする。(聞き手/ダイヤモンド社 論説委員 大坪 亮、文/ライター 奥田由意)

改正のポイントは個別周知・意向確認、
情報提供、雇用環境整備の3つ

――2025年4月に施行となった育児・介護休業法等の改正は、どのような内容ですか。

 今回の改正は、介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化を目的としており、主に三つの措置が事業主に義務付けられました(図表1の下部の赤文字参照)。

 一つ目は、介護に直面した労働者への個別周知・意向確認の義務化です。労働者から「家族に介護の必要が生じました」という申し出があった場合、事業主は自社の両立支援制度に関する情報を個別に周知し、制度利用の意向を確認しなければなりません。

 具体的には、自社の介護休業制度、介護休暇制度、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、短時間勤務制度等の内容について説明します。

 また、これらの制度の申し出先は社内のどこか、例えば人事部などの窓口情報も明確に伝える必要があります。さらに、介護休業給付金についても説明することで、経済的な不安を軽減し、制度利用の心理的ハードルを下げることが求められています。

 周知・意向確認の方法は、原則として面談または書面交付で行います。ただし、労働者が希望した場合に限り、電子メールやFAX、社内イントラネットでの実施も可能です。当然ですが、取得を控えさせるような形で行われてはなりません。威圧的な態度や、不利益をほのめかすような対応は禁止されています。

 二つ目は、介護に直面する前の早い段階での情報提供の義務化です。具体的には、労働者が40歳に達した際、事業主は、所定の期間内に、自社の両立支援制度等に関する情報提供を全労働者に対して一律に行うことが求められます。

 なぜ40歳なのかですが、40歳になると介護保険の第2号被保険者となり、給与から介護保険料が天引きされ始めるため、誰しも親の介護を金銭面でも意識し始める年齢と考えられることから、この年齢を設定しています。

 また、統計データでも40代後半から介護離職者が急増することが示されており、40代後半のボリュームゾーンに至ってからでは遅いので、40歳からとしました。

 介護は育児と異なり、ある日突然始まります。警察から「親御さんが徘徊して保護されました」という電話がかかってきたり、病院から「親御さんが自宅で倒れて救急車で運ばれてきました」という連絡が来て始まることも多く、準備なしに直面するとパニックになってしまいます。

 介護に直面するまでの段階で、どのように介護をマネジメントしていくかという心構えを持っていただくためにも、プッシュ型で情報提供を行うことが重要なのです。

 なお、情報提供に当たっては、同時に介護保険制度についての説明も行っていただくことが望ましいと考えています。