――趣旨に合った措置が実行されている企業は、企業内でどのような制度が実行されているのでしょうか。成功モデルがあれば、教えてください。
2025年4月から7月にかけて、厚生労働省では有識者研究会を開催し、新制度の企業実務での具体化をどう支援するかについて検討を行いました。先進的な取り組みをしている企業や団体からヒアリングを実施し、厚生労働省ホームページにリリースしました。
さまざまな企業や団体にヒアリングを重ねる中で見えてきた、先進企業に共通する特徴として、職場で介護に関することをオープンにしやすい環境を作れていることが挙げられます。介護の話題を自然に相談できる雰囲気があることが重要です。
そして、介護に直面してから対応を考えるのではなく、常日頃から社員に対して情報提供を行い、相談にしっかりと対応しているというのも共通点です。事前の準備と継続的な情報提供が、いざというときのスムーズな対応につながっています。
もう一点重要なのは、介護に直面した労働者とつながり続けることを重視している点です。「介護に直面しました」と申し出があった際に、善意から「介護休業を3カ月使えるから、まずは親御さんのところに行って、しっかり介護をしてきた方がいい」とアドバイスしてしまうと、言う側に悪意はなくても、結果的に労働者の介護離職につながってしまうことがあります。
というのは、労働者が介護に専念してしまうと、介護休業期間中ずっと自分で親の食事、入浴、排泄の介助をし続けることになります。そうなると、3カ月後にどこにも頼れる先がなく、休業期間が終わった後も自分で介護を続けざるを得なくなり、結果的に離職につながってしまうといったことになりがちなのです。
先進企業では、3カ月の介護休業をどう使うかという制度の使い方も含めて、社内全体、特に管理職に共有が図られています。介護に直面した労働者が発生した場合には、制度を使いながらも働き続けるという最終ゴールを見据えて、制度利用の仕方や介護サービスの利用方法を一緒に考えることができています。
社内で介護と両立している社員の事例を積極的に共有し、「あの部長も仕事と介護を両立させている」という情報を提供することで、周囲の社員が将来介護に直面した際に、仕事と介護を両立していくイメージを持てるようにすることなども、重要な取り組みです。
また、先進企業では、社長や経営陣が介護との両立支援に強い問題意識を持ち、トップダウンで企業全体として対応する方針を明確に打ち出しています。トップが必要性や目指すべきゴールを理解していると、全社的にその理念や制度の趣旨が体系的に伝わりやすくなります。
概してトップメッセージを定期的に発信し、介護支援は企業の重要な方針であることを繰り返し伝えること、単発の取り組みではなく、継続的かつ体系的なアプローチが成功の鍵となっています。
また、管理職自身も介護リスクが高い世代であることを踏まえ、管理職向けの研修等の中で自身のリスクへの「気づき」を促す内容を盛り込んでいる事例も見受けられました。
>>厚生労働省 雇用環境・均等局 職業生活両立課 課長補佐 有瀧悟史氏インタビュー(第3回)へ続く







