“鶏口となるとも牛後となるなかれ”という故事成語があります。

 大きく安定した組織に属し指導者の後を安穏と追随するのではなく、たとえ小さな組織でも自ら率いて前進せよ、というほどの意味です。寄らば大樹の陰ではなくて、自らがリーダーとなり先頭に立って果敢に決断し苦難を乗り越え大事を達成する、というイメージです。中国四千年の歴史に立脚した諺ですから、人生の真実が此処には現れているようです。

 しかし、鶏口に成り得るだけの力量を備えなければ、リーダーになれません。では、どうやって指導者に相応しいチカラを溜めますか?

 それは、凄い奴の側で修行するに限ります。鶏口になる前には、牛後にいて周りの強烈な人物と一緒にいて磨かれることも重要です。例えば、ビートルズの四人の中で最年少かつ最も静かだった男ジョージ・ハリスンです。ジョージが牛後の地位に甘んじていたと言うつもりはありませんが、ジョン・レノンとポール・マッカートニーという20世紀の音楽界の中でも傑出した大天才の側で、チカラを磨いたのがジョージです。

 と、いうわけで、今週の音盤はジョージ・ハリスン「オール・シングス・マスト・パス」です(写真)。

チカラを溜めて一気に才能を爆発

「オール・シングス・マスト・パス」は、1970年11月に発表されました。

 当時としては非常に珍しいLP3枚組です。当時の標準的な音楽フォーマットであるLPでは片面に約20分の楽曲を収録していました。3枚ということは約20分X2面X3枚という分量です。実際の収録時間は103分33秒のロック史上空前の規模でした。

 ということは、ジョージ・ハリスンという男は、質と量を同時に達成するだけの創造力を十二分に備えていたということです。ビートルズでは常にジョンとポールの谷間で目立たず、静かなギタリストという感じでした(しかも、実はポールの方がギターも上手かったという説もありました)。そんな静かなビートルがチカラを溜めて一気に才能を爆発させたのです。