「えっ、弟さんーーー?」

 私の隣に付いてくれたお姉さんは、「うわっ、芸能人だ!」みたいなテンションでもなく、「こんばんはー」と普通に挨拶をし、「今日も暑かったですねー」と、普通に会話をし始めてくれた。

「今日はテレビのお仕事だったんですかー?」

「いや、今日は昼間、ゴルフ行ってた」

 別に仕事のことをことさら興味本位で聞いてくるわけでもなく、どのお客さんにもそうするかのように、普通のトーンでやり取りしてくれる。滅多には行かないが、こういうお店に行くと、得てして、「えーっ、上田さんですかー? いつもテレビ観てまー! サイン欲しいんだけど!」などとテンション高目に言われることが多く、もちろんそう言っていただけるだけありがたいのだが、他のテーブルのお客さんの視線が気になったり、落ち着かない思いをしたりすることが多いのも事実なのだ。

 この日のお姉さんの至って普通のトーンに、(たぶん気を遣ってテンションを上げないようにしてくれてるんだな)と、そのプロ魂に感心し、かつその配慮に感謝して、そのまま会話を続けた。

 美味しいお酒を飲みながら、一緒に行っていた友人をイジったり、取り留めもない世間話などをしたりして約20分後。私の隣に座っていたプロフェッショナルのお姉さんが、私の顔をマジマジと見ながら、突然、アルプススタンドの応援団長くらいの声で叫んだ。

「えっ、弟さんーーー?」

 どうやら私のことをずっと「上田アニ」だと思い込んでいたらしい。どうりで「今日はテレビだったんですかー?」などの会話も普通にハマるはずである。

 気付いた後はそのお姉さん、芸能界事情や一緒に仕事をした芸能人で誰が一番カッコ良かったかなど、今日の『おしゃれイズム』のゲストは俺か、とばかりに質問攻勢を仕かけてきた。プロフェッショナルさも配慮もビタ一文なかった。

 次の日。十数人でゴルフコンペをやった。この日も「上田アニ」は参加していた。

 私と兄がパターの練習をしていると、中学生のゴルフ部と思(おぼ)しき数人が、「おい、見ろよ、あれ『上田アニ』だよ! 『上田アニ』の本物がいるぜ!」と興奮気味にはしゃいでいる。