全国区の上田と「上田アニ」が一緒に歩くと
「いや、俺は俺の実力でタレントとしてやってるんだし、別にお前の力は借りてないし、俺は俺のオリジナリティーでやってるんだから、お前にそんなことを言われる筋合いはない」
と。その割には「上田アニ」という名前で活動している。“アニ”を名乗っているということは、大前提として私の存在を借りているということに他ならないのだが……。
(まあ兄貴が熊本でほんのたまーにテレビに出たりラジオに出たりするのを、そんなに目くじら立てることもないか)
などと思っているところに友人たちがやってきたので、話はそこまで、となった。
ところが、そんな私の存在ありきの「上田アニ」と私が、熊本で一緒に行動していると、“アニ”のほうは気付かれるが、私は気付かれない、という珍現象が頻繁に起きる。
その日の夜も、食事をすませ、次の店に移動している時、「あっ、上田アニだ!」
とか、「あー、握手してください!」などと“アニ”ばかり声をかけられる。
隣に「上田アニ」の“上田”のほうがいるのに。いや、「私は全国区のスターだ!」
などという驕(おご)った考えを持っているわけではない。だがしかし、少なくとも“アニ”よりは俺のほうが有名でしょ? とは言いたくなる。だって兄貴の芸名からしても“上田”のほうは俺なんだから。いや、まあ兄貴も“上田”ではあるんだが。わかるよね、このニュアンス?
とにかく声をかけられるのは兄ばかりで、私は一向に気付かれない。別に私が『ミッション:インポッシブル』のイーサン・ハントばりに変装している訳でもない。兄も私も帽子を被っているくらいで、変装度合いはちょうど同じ、テニスの審判がいたら「デュース!」と言うだろう。
兄は次の店で帰ったが、私と友人数人はもう一軒行こうということになり、お姉さんが隣に付いてくれるお店に行くことになった。







