潜入取材と聞くと、「嘘をついて入り込むもの」というイメージを抱く人は少なくない。だが、ユニクロやAmazonなど数々の大企業に潜入してきたジャーナリスト・横田増生氏は著書『潜入取材、全手法』にて、取材では、嘘をつかないことこそ重要だと語る。本稿では、『ルポ 超高級老人ホーム』の著者で、ノンフィクションライターの甚野博則氏と共に、どこまでが許されどこからが危ういのか、潜入取材の“線引き”をめぐるリアルな感覚を語り合う。(企画・構成:ダイヤモンド社書籍編集局 工藤佳子)

スクープ記者が新興宗教主催の「お見合いパーティー」に潜入! 女性信者からの“意外な”質問Photo: Adobe Stock

新興宗教が主催する
“お見合いパーティー”に潜入

――『潜入取材、全手法』(2024年、角川新書)で、潜入取材では嘘はつかないように徹底しているというお話をされていました。

横田増生(以下、横田):本にも書いたけど、潜入取材って「後ろめたい、ずるい」というのが常々言われてきたんです。

 沖縄県知事選で選挙事務所に潜入した時には本名を書いたことで取材がバレてしまいましたが、嘘の名前を書くこともできた。でも、後でバレたとき「ずるい」って言われるでしょう。そうすると、本の価値も下がるような感じがして。だから避けたいなと。

『ルポ 超高級老人ホーム』で少し触れられていますが、甚野さんは『週刊文春』の記者だった時代に宗教団体のお見合いパーティーに潜入したことがあるんですか。

甚野博則(以下、甚野):10年以上前の話ですが、とある新興宗教団体がお見合いパーティーを主催してるっていう情報がありました。この時もやっぱり自分の名前で潜入しましたね。

横田:誰でもいけるの?

甚野:信者であること以外に、その新興宗教に“興味関心がある方”っていうのが、条件の一つ入ったんです。僕、信者ではないけど取材者としてその宗教に興味関心があるじゃないですか。だから、これは満たしてるなと思って行きました(笑)。

 最終的に、うちは宗教団体公認のお見合いパーティーではないから教団の本部には言わないでくれと文藝春秋まで乗り込んできました。

横田:その記事は載ったんですか。

甚野:そんなに大きな記事ではないですが、もちろん雑誌に載りました。宗教団体が主催するお見合いパーティーがけしからんっていうよりは、どんなところなんだろう、っていう好奇心で潜入したんですよね。

 実際お見合いパーティーに行ったら男女が同じ人数いて、皆さんおそらく信者なんですよ。年齢は20代からもう40、50代まで幅広かったですね。