それでもあまりの支出ぶりに夏美さんが激高すると、「光男さんは妻である私の子も、孫だと言って愛してくれているので、大学の進学費用も出してくれましたよ」と言い放ちました。光男さんに聞いても、「ゆかりさんが全部やってくれている」と言うだけで、いつ、誰に、何に使ったのかもわからない様子。
夏美さんが医療機関に連れていき、光男さんを受診させた結果、やはり認知症が進行していました。
孤独と介護は家族の課題
後妻が貢献しているケースも多い
この事例では、急激に父の資産が使い込まれていましたが、その一方で後妻が娘である夏美さん以上に生活を支えている事実も忘れてはいけません。
夏美さんは都内で管理職に従事しており、多忙のため子を持たない選択をしていました。光男さんが、ゆかりさんの子を孫のようにかわいがる様子も見られたため、夏美さんは苦しい思いを抱えています。
今後類似事例を抱えた場合にはどのように対処すべきか、相続案件を専門とし「後妻業」トラブルにも詳しい大村隆平弁護士に聞きました。
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――今回のようなケースでは、夏美さんは父である光男さんの財産を取り返すことはできるでしょうか。
大村弁護士 ポイントは、「後妻の貢献の対価」と「光男さんの意思能力の低下」の二つを切り分けることにあります。まず、ゆかりさんが介護や家事で貢献している事実は否定できません。しかし、その貢献が9000万円という巨額な資産移動の正当な理由になるかといえば、慎重に調べる必要があります。
光男さんがゆかりさんの子どもを孫のようにかわいがっていたとしても、認知症により高額な資産移動の法的意味を理解できていなかったことを証明できれば、その贈与行為は無効になる可能性があるためです。
カルテ(診療記録)や、市区町村が保管している介護認定記録、高齢者施設の介護日誌等が、この「意思能力の低下」を証明する証拠としてよく使われています。
「後妻の一手」で
さらに問題が複雑化するおそれ
おおむら・りゅうへい/2010年に一橋大学法科大学院卒業、同年司法試験合格。11年に弁護士登録、弁護士法人ロウタス法律事務所入所。19年に雨宮眞也法律事務所に移籍。弁護士登録以来、一貫して相続事件に注力。
――一人暮らしの親と離れて暮らす子は少なくありません。「後妻業」トラブルに巻き込まれないようにするには、子はどうすればよいでしょうか。
大村弁護士 今回のように、長年連れ添った配偶者を失った後に残された方は「孤独」や「不安」を感じやすくなります。子が物理的に離れていても、親の資産と生活を守るために取るべき対策は、「親子のコミュニケーションによる見守り」に集約されます。
親子の信頼関係を前提に、親の預貯金や不動産などの財産状況を共有しておきましょう。これにより、親が誰かにだまされて多額のお金を引き出したり、不動産を勝手に担保に入れたりする前に、異変を察知しやすくなります。







