量子コンピュータが私たちの未来を変える日は実はすぐそこまで来ている。
そんな今だからこそ、量子コンピュータについて知ることには大きな意味がある。単なる専門技術ではなく、これからの世界を理解し、自らの立場でどう関わるかを考えるための「新しい教養」だ。
『教養としての量子コンピュータ』では、最前線で研究を牽引する大阪大学教授の藤井啓祐氏が、物理学、情報科学、ビジネスの視点から、量子コンピュータをわかりやすく、かつ面白く伝えている。今回は2023年ノーベル物理学賞について抜粋してお届けする。
Photo: Adobe Stock
一瞬の光を作る
2023年のノーベル物理学賞は、「アト秒レーザー」の開発に貢献した研究者三人に授与された。
「アト」とは、「ミリ」や「マイクロ」のように単位の前に付ける接頭語で、「100京分の1」という意味だ。
1秒間に地球を7周半する光ですら、アト秒間に進める距離は0.3ナノ(10億分の1)メートルである。
アト秒レーザーとは、数十から数百アト秒というほんの一瞬の光を作る技術で、量子力学で支配されるミクロな世界の変化を「観る」、そして制御するために重要な鍵を握る。
このような一瞬の光を発生させるためには、一つの決まった波長の波を連続的に立てるのではなく、微妙に波長の異なる波を立てる。
レーシックに使われているとある技術
プールのある一点でちょうど重なって強め合うようにすると、波がプールを一周するごとに、強い波が定期的に放出されるようになる。
この仕組みを用いて、極めて短い間隔で強度の大きい光の波(パルス)を発生させることができる。
パルス状のレーザーは、通常のレーザーと比べて瞬間的に光の強度を上げられる。
そのため、レーザー照射した物体内で熱が伝わる速さよりも短い時間で照射を完了できる。
この性質は、精密なレーザー加工やレーシック(視力回復手術)などのレーザー治療の分野で既に広く利用されている。
光のパルスが通過する時間はフェムト(1000兆分の1)秒程度まで短くすることができ、「フェムト秒レーザー」とも呼ばれている。
フェムト秒からアト秒へ
こうしたパルス状のレーザーは高速で動作する照明装置のストロボのようなもので、高速で動く物体の観察にも利用されている。
たとえば、新幹線や空を飛ぶ鳥がぶれないよう写真に撮るためにはシャッタースピードを短くする必要があることと同様に、レーザーのパルス幅が短ければ短いほど、高速の変化を観察することができる。
1999年には、フェムト秒レーザーを用いて化学反応過程を直接的に観察する「フェムト秒化学」に貢献したアハメッド・ズウェイルにノーベル化学賞が授与されている。
しかし、単一の電子が原子核の周りを運動するタイムスケールはさらに短く、アト秒スケールに突入する。
さらに細かく、一つひとつの電子の変化を観察するためには、アト秒レーザーが必要になるのだ。
(本稿は『教養としての量子コンピュータ』から一部抜粋・編集したものです。)





