なぜ中小企業の
事業承継は進まないのか

「古くからの取引先が社長交代して。名刺をもらったら、『社長』としか書いていないんだよ」という話も聞いた。要するに、「代表取締役」とは印刷されていない、というのがポイントだ。

「社長」の肩書きは、実は法律上は何の意味もない。単なる通称に過ぎない。だから理屈上は「平社員の社長」もあり得る。

 会社は本来、株主が取締役を選び、取締役から代表取締役を選出する。中小企業では多くの場合、創業者=社長=代表取締役だ。そして創業者が年を取り、右腕だった古株社員に代表を譲るとする。経営権も譲りたいから、株式も譲ろうとすると、数億円の価値が付くケースもある。

 しかし、古株社員の配偶者が反対するケースも多い。「あなた、数億円の借金を背負って、さらに代表として会社の個人保証を背負うのはやめて」と。

 負担を減らす、特別目的会社(SPC)を使った株式の取得スキームもある。創業者に多額の退職金を支払うことで企業価値を大幅に下げたり、親族内相続税の猶予措置もあったりする。しかし、それでうまくいくなら事業承継がこんなにも進まないはずがない。結果、社長職は引き継ぐが、株式は引き継げずに、「社長」とだけ書いたトップが誕生しているわけだ。

 帝国データバンクよると全国の社長の平均年齢は60.7歳、東京商工リサーチ調査では63.6歳だ。団塊の世代が後期高齢者となった25年、中小企業経営者の高齢化と事業承継の課題が深刻化した。