東大卒ロールモデルの不在

孫氏 そうですね。それに加えて、もう一つ大きいのが、東大卒の“キラキラしたロールモデル”が見えにくくなっていることだと思います。昔は、「伊沢拓司さんみたいになりたい」という分かりやすい憧れがあった。でも今は、SNSやメディアで目立っているキラキラした人たちが、「学歴は関係ない」「東大じゃなくても成功できる」と発信している。ネット上で見る限り、東大というブランドが、以前ほど“夢の象徴”として機能していないんですよね。

じゅそうけん氏 それはかなり感じます。X(旧Twitter)を見ていると、「慶應のほうが良くない?」という空気感は確実にあります。最近のトレンドって、「コスパ良く」「タイパ良く」なんですよね。そう考えると、都会だと私立文系で3科目でいい早稲田慶應の方が人気になるのも頷ける部分もありますよね。実際、最近いわゆる“イケてる社長”を見ていくと、立教や早慶などの私立文系出身者が多いですよね。ゆとり世代の起業家を見ても、必ずしも東大ではない。

海外大学との併願問題も……

孫氏 その流れで言うと、海外大学との併願問題もありますね。今の東大は、正直言ってコスパが悪い。海外大との併願を考えると、東大入試はあまりにも負荷が大きい。問題がシンプルに難しくなりすぎているんです。求められる準備量に対して、得られるリターンが見えにくい。

じゅそうけん氏 だから最近は、2番手校からの進路として、一橋や東工大(現・東京科学大)を最初から狙うケースも増えていますよね。「東大を受けて、ダメなら早慶」ではなく、「最初から一橋・東工大でいい」という感覚になっている気がします。

孫氏 まさにそうです。だからこそ、僕は思うんですが、東大はもっと“発信”を頑張るべきなんですよ。日本って、先進国の中でも珍しく、「入学前の話」ばかりしている国だと思うんです。「どれだけ難しいか」「どれだけ偏差値が高いか」という話はするけれど、「中で何を学べるのか」「カリキュラムがどう違うのか」は、ほとんど語られない。こんな国、他にはないですよ。(笑)

じゅそうけん氏 確かに、東大の中身って、意外と知られていないですよね。

孫氏 そうなんです。東大の教授こそ、もっとSNSをやるべきだと思っています。「だからこそ東大なんだ」という理由が、もっと可視化されるべき。今は、「タイパ」「コスパ」で見たときに、東大はどうしても不利に見えてしまう。でも、本当は東大でしかできない学びもあるはずなんです。ただ、それが伝わっていない。少ないからこそ価値があるはずなのに、「入試が難しい」以外の魅力が語られない。そこが、今の東大が直面している一番の課題だと思います。

じゅそうけん氏 なるほど。「学力が落ちたから東大に行かなくなった」のではなく、「合理的に考えた結果、東大を選ばないエリートが増えた」という構造なんですね。

孫氏 まさにそうです。エリートが東大を目指さなくなったのは、逃げでも衰退でもない。時代が変わり、価値判断の軸が変わった結果なんだと思います。だからこそ、東大も「難しい大学」であり続けるだけでなく、「なぜ行くのか」を語れる大学になる必要がある。その勝負が、これから始まるんじゃないでしょうか。

じゅそうけん(受験総合研究所)
受験総合研究所、略して「じゅそうけん」の名前で活動する学歴研究家。本名は伊藤滉一郎。じゅそうけん合同会社代表。X(旧Twitter)をはじめとするSNSコンサルティングサービスも展開する。早稲田大学を卒業後、大手金融機関に就職。その後、人生をかけて学歴と向き合うことを決意し退職。高学歴1000人以上への受験に関するインタビューや独自のリサーチで得た情報を、X(旧Twitter)やYouTube、Webメディアなどで発信している。著書に『中学受験 子どもの人生を本気で考えた受験校選び戦略』(KADOKAWA)、『中学受験はやめなさい 高校受験のすすめ』(実業之日本社)がある。

(この記事は『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』に関連する対談記事です)