現代の経営は「強制された自発性」を社員から引き出す工夫を加えました。典型は、ノルマや目標の設定の際、社員自身にも責任を負わせる仕組みです。面接で上司が「君はもっと能力があるよ」「もっとできるはずだ」とうまく励まして、社員が最初に申告した目標を、より高い水準に誘導する。その揚げ句、社員は「やります」「やらせてください」と言ってしまう。こうして「約束された」目標の達成度は社員のランキングになり、昇給や賃金や賞与に大いに影響することになります。
(「人事考課が働く人を追いつめる 会社に好都合な『強制された自発性』」朝日新聞デジタル、2024年3月14日)

「自発性」を「強制される」とは強烈な言葉である(コロナ禍に乱発された「自粛」を「要請する」に近いものを感じる)。社員の目標を設定する際に押しつけるのではなく本人の意思を引き出すのが重要といった話は、企業の中で日常的に行われている。

1on1で導かれた目標が
自分の「やりたいこと」なのか

 1on1、もしくはコーチングといった昨今の人事制度で持てはやされている仕組みについて語られる際によく「傾聴」という言葉が使われるが、結局これも企業側もしくは上司側にとって都合の良い方向へと誘導するためのスタンスでしかないケースが多い。それは傾聴ではなく、あくまでも望んだ結論に持ち込むための交渉術である。

 しかし、受け手側はそこで導き出されたものを「自分のやりたかったこと」だと勘違いしてしまう。社会経験の浅い若手であればなおさらその傾向は強いだろう。

 武藤浩子『企業が求める〈主体性〉とは何か 教育と労働をつなぐ〈主体性〉言説の分析』によると、企業の採用部門は社員に対して主体性をより強く求めている。この状況は肌感覚として理解できるが、大事なのはここで言う主体性というものが具体的に何を指すのかである。