狭い。というか薄い。

 以前、千葉の船橋で河口のコンクリ堤防に係留した、改造ボートのバーに行ったことがあって、それは船だからかなりの狭さだったのだけれど、それどころではない狭隘店なのであった。

「狭いでしょ、うふふ、すいません」

 笑ってむかえてくれたのは店主の髙島均さん。手ぬぐいを頭に巻きマスク姿だけれど、なんだろう粋人の雰囲気が漂っている。

看板商品のおでん
そのレシピは門外不出

 さて、まずは食べてみなくてははじまらない。その前にお酒を、とお願いしたら、背後の冷蔵庫から自ら取り出すシステム。焼酎と水をセルフサービスでカウンターにのせると、髙島さんが、さっとステンレスのカクテルメジャーカップをさしだした。のぞいてみたら、そこに茶色の錦松梅みたいなものがはいっている。

「それね“だしおしみ”っていうんです、すいませんねえ」

 なぜか、またしても謝りながら教えてくれたソレは、おでんの出汁ガラを炒ったものだった。つまみにいいと言うので、まずそれをパクッとやったら、素朴にしてコク深い。これは、おでんも旨いに違いない。

 壁を見ると黒板があって、右端に「おでん500から」、間はなにもなく、左端に「ぬか漬500」とだけ書いてある。なんだかオートバイの名前のようだ。黒板のなかまでソーシャルディスタンスなのであった。とまれ、それぞれの値段はよくわからない。昔の屋台のおでんシステムと同じで、なんとなく自分で計算しながら食べればいいのだろう。こういうスリル、嫌いではない。

「えっ、広尾だよね…」都心ど真ん中にポツンと“陸の孤島”酒場、門外不出の絶品メニューに声を上げたワケ同書から転載