「東大へ行かなかったらお前は死ぬ!」生存戦略としての“文転のススメ”【マンガ解説】『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の受験マンガ『ドラゴン桜2』を題材に、現役東大生(文科二類)の土田淳真が教育と受験の今を読み解く連載「ドラゴン桜2で学ぶホンネの教育論」。第118回は、受験が本格化してからの「文転・理転」について考える。

「浪人回避のための文転」手段はいくつかある

 龍山高校の生徒たちは大学入試センター試験(現:大学入学共通テスト)に挑む。順調なスタートを見せた生徒もいる中で、東大志望で理系トップの藤井遼は730点と大幅に出遅れてしまう。ショックを見せる藤井に、東大合格請負人の桜木建二は文転して文科二類を受けるよう勧めるのだった。

 現実的な話として、理系の生徒が共通テストで失敗したタイミングで文転を考えるのはとてもリスクが高い。そもそも1カ月で最難関大学の文系科目を1からマスターするのは無理がある上に、二次試験まで1カ月以上の間「やっぱり理系のまま行けばよかったかも」という思いにかられるからだ。

 特に、東京大学では二次試験で社会が2科目(日本史・世界史・地理から2科目選択)ある。教科書レベルの知識事項の暗記を前提とした上で、深い思考力が問われる記述問題が多数出題される。もともとこれらの科目が理系科目と同じくらいに得意といった状況でない限りは、まず手を出すべきではない。

 一方、現役生が浪人回避するための文転手段はゼロではない。例えば、早稲田大学の政治経済学部である。もちろん文系の学部ではあるが、共通テスト利用入試では国公立理系用の受験形式でも出願できる。一般選抜では「日英両言語による長文」を用いた独自の総合問題が課されるため、理系でも文系と同じ土台で勝負ができる。

 また、国公立大学には、理系の受験生でも文系学部に出願できるようなところもある。東北大学経済学部では数IIIを含む理系専用の枠を設けている。また、首都圏だと一橋大学の経済学部が、後期試験の数学において数IIIを含む形式の問題が選択できるようにしている。

文系・理系の枠組みにとらわれるな

漫画ドラゴン桜2 15巻P107『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク

 一橋大学には2023年度からデータサイエンスを専門に扱う文理融合のソーシャル・データサイエンス学部が新設され、理系の生徒にも門戸が開かれている。同学部には後期試験もあるため、国公立前期日程で涙を飲んだ理系の生徒たちが受験することも多い。

 経験がない中で言うのは恐縮だが、文転・理転というのはタイミングがいつであっても大きな決断だ。今まで積み上げてきたものを1回リセットするというのは勇気がいる。受験が近づくにつれて、自分の決断が不安になることもあるだろう。

 ただ、文系・理系の枠組みはあくまで日本の受験制度の話にすぎない。

 文転したからといって理系科目を再び学ぶことも可能だし、その逆もしかりだ。文転は理系科目を学ぶ適性を否定されたわけではない。自分が受験生の頃、理転・文転に対して負い目を感じている友人がいた。だが、先述した一橋大学でのソーシャル・データサイエンス学部の設立のように、文理両方の知識・技能が必要とされる分野が増えてきている。

 高校時代の友人に、受験途中で文転し、大学入学後の現在は、再度理転を目指している人がいる。彼は文学や思想に造詣(ぞうけい)が深く、一方で数字や科学理論を元にした考察もできる。

 文転や理転はもともとの専攻分野を「諦めた」のではなく、「2倍の武器を手に入れた」と捉え直すことができるのではないだろうか。

漫画ドラゴン桜2 15巻P108『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク
漫画ドラゴン桜2 15巻P109『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク