1974年にオスバルド・パトリッツィ(Osvaldo Patrizzi)とガブリエル・トルテッラ(Gabriel Tortella)によって設立されたGalerie Genevoise d’Horlogerie Ancienne(後にアンティコルム〔Antiquorum〕と改名)は、このプロセスにおいて重要な役割を果たした。

 まず、The Art of Patek Philippe(1989年)、そしてThe Art of Breguet(1991年)と、時計ブランドをテーマにした販売展示会を初めて開始した。時計メーカーとブランドのストーリーを伝える図解カタログを添えたこれらのセールは大成功を収め、それを受けて他のオークションハウス、特にクリスティーズ(Christie’s)とサザビーズ(Sotheby’s)が追随した。

『ロレックスの経営史-「ものづくり」から「ゆめづくり」へ』書影『ロレックスの経営史-「ものづくり」から「ゆめづくり」へ』(ピエール=イヴ・ドンゼ、大阪大学出版会)

 また、アンティコルムは腕時計をテーマにしたセールを提供することでも革新をもたらした。アンティコルムは、老舗の時計メーカーではなく、現代ブランドに焦点を当てた。ミラノ(1992年)、ジュネーブ(2006年)、ニューヨーク(2008年)では、ロレックスの腕時計だけに特化したセールが開催された。クリスティーズはロンドン(1997年)とジュネーブ(2017年)、サザビーズは香港(2002年)、アートキュリアルはパリ(2004年)、フィリップスはジュネーブ(2015年)で同様にセールを行った。

 しかし、2000年以降の価格と記録の飛躍的な伸びは、オークションハウスの新たな戦略の成果だけではない。

 世界の所得格差が拡大し、富裕層が著しく豊かになっていることが、継続的な需要増を促すための重要な役割を果たしていることを忘れてはならない。

 このような高級品産業の現実的な側面は、ブランドの成長要因としては華やかさに欠けるため、こうしたブランドの広告収入に依存している経済ジャーナリストやアナリストにはあまり触れられない。しかし、実際のところは、これが現代のラグジュアリーの本質的な側面なのである。