中国が景気対策の一環として2009年2月から実施している「家電下郷」政策が、さらに拡大実施される可能性が出てきた。7月中旬、政府高官が、「将来的に家電下郷対象製品の価格上限を撤廃する」と表明したからだ。
家電下郷とは、テレビや冷蔵庫など10種類の製品分野で政府が認定した対象製品を購入すると、価格の13%をキャッシュバックしてくれる制度だ。対象製品には価格上限があり、たとえばテレビは3500元(約4万9000円)と定められている。
4000元以上が主体の海外メーカーの製品は、一部を除きほとんどが家電下郷の対象外で、その恩恵を受けることができない。そこに国内メーカーの低価格攻勢が追い打ちをかけ、1年前は過半を占めていた海外メーカーのシェアは、2割前後まで落ちている。
価格上限の撤廃で海外メーカーはシェア回復を図りたいところだが、ほかにも難題が待ち受けている。「価格上限がなくなっても、当局の認定審査といういちばん高いハードルが残っている」(大手メーカー中国現地法人幹部)からだ。
認定審査では、価格に加えて、販売・サービス拠点の整備状況なども審査の対象となるが、「審査基準が不透明で、落選理由もよくわからない。家電下郷は明らかな国内メーカー支援策だ」(大手メーカー幹部)との声も上がっている。
もし価格上限が撤廃されれば、国内メーカーの大画面テレビが対象となる可能性が高い。国内勢にとっては追い風が、海外勢には逆風が強くなる。今年末までに、家電製品販売総額の3分の1が家電下郷対象製品で占められるという試算もあり、対象製品になるか否かは、死活問題になりかねない。
米ディスプレイサーチの予測では、中国の液晶テレビ市場は、12年に3940万台に達し、北米を抜いて世界最大の市場となる。家電下郷という思わぬ逆風を乗り切り、世界最大のパイにありつくことができるのか。海外メーカーの苦戦は続く。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 前田 剛)