イーロン・マスクPhoto:AFP=JIJI

のちにChatGPTをリリースして世界を震撼(しんかん)させるオープンAI社。黎明(れいめい)期の同社のボットがeスポーツのワールドチャンピオンと対決し勝利を収めたことをきっかけに、水面下では深刻な権力闘争が始まっていた。創業メンバーでありメイン出資者であるイーロン・マスクと、アルトマンのあいだでは激しい応酬が交わされ、交渉は決裂へと向かう。※本稿は、キーチ・ヘイギー著、櫻井祐子訳『サム・アルトマン「生成AI」で世界を手にした起業家の野望』(NewsPicksパブリッシング)の一部を抜粋・編集したものです。

世界中が注目した歴史的な対戦
トッププロに異例の挑戦者が挑む

 2017年8月の金曜日。多人数オンライン対戦ゲーム「ドータ2」の2万人のファンが、シアトル中心街のスタジアム、「キー・アリーナ」の前に行列していた。

 多くのファンがゲームのキャラクターのかぶりものや鎧でコスプレしていた。

 ドータは、ブリザード・エンターテインメントが開発した人気ゲーム、「ウォークラフト3:混沌の支配」から有機的かつ無秩序に派生したゲームだ。

 ドータは世界的な文化現象となり、別のゲーム会社バルブがゲームの権利を購入して、ドータ2の初の本格的な年次世界大会「ジ・インターナショナル」を開催し始めた。

 賞金総額が2000万ドルを超える、この世界最大のeスポーツトーナメントは、チェスとバスケットボールを掛け合わせたようなゲームを、5対5のチーム戦で戦う。

 だが今年の大会では、歴史的な公開対戦が予定されていた。ドータの世界トッププロ、ダニール・イシュトンが、オープンAIが学習させたボットと1対1で戦うのだ。

 煙幕の中からローブ姿のイシュトンが、ボクサーのように腕を振り回しながら派手に登場した。対戦相手は台車に乗せられて現れ、小型メモリを差し込まれて起動した。