
ソフトバンクグループは、米エヌビディアがけん引するAI(人工知能)半導体市場に本格参入する。すでに、米オープンAIと米国で巨大AIデータセンターを建設する「スターゲート計画」を表明。これに続いて、米半導体アンペア・コンピューティングを1兆円規模で買収することで合意した。特集『絶頂か崩壊か 半導体AIバブル』の#1では、「ASI(人工超知能)」の実現を掲げる孫正義会長兼社長が描くAI覇権戦略の全体像に迫る。(ダイヤモンド編集部 村井令二)
AI覇権に必須の巨大演算能力
データセンターと半導体を確保
2022年11月に米オープンAIがチャットGPTを公開して以来、生成AIへの関心を強めたソフトバンクグループ(G)の孫正義会長兼社長は、オープンAI創業者のサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)との距離を急速に縮めている。
人間並みの知能を持つ人工汎用知能(AGI)が2~3年以内に実現し、人間の知能を超える人工超知能(ASI)の実現も近づいていると考える孫氏は、ある時、アルトマン氏に「コンピューターのパワーはどれくらい必要になるのか」との問いを投げ掛けた。
その回答は「大きければ大きいほどいい」というシンプルなものだったという。
孫氏は、こうしたアルトマン氏との会話で、いち早くAGIを実現させてAIの覇権を握るには、膨大な演算能力を確保することが必須だという認識に至った。
それを具体化させたのが、4年間で5000億ドル(約75兆円)をかけて米国に巨大データセンターを建設する「スターゲート計画」だ。1月21日(現地時間)、孫氏は、米ホワイトハウスの共同記者会見で、トランプ米大統領に向かって、巨額投資の実行を表明した。
2月3日には、オープンAIが開発する企業向けのAIソリューション「クリスタル・インテリジェンス」を国内に導入し、ソフトバンクGが毎年30億ドル(約4500億円)の利用料を支払うことに合意した。
オープンAIに惜しみない支援を続ける孫氏が、次に手を打ったのが半導体企業の買収だ。3月20日、ソフトバンクGは米半導体アンペア・コンピューティングを65億ドル(約9700億円)で買収すると発表した。
これにより孫氏は、AI開発に必要な半導体とデータセンターを手中に収める。マイクロソフト、グーグル、アマゾン・ドット・コム、メタなど米国の巨大IT(ビッグテック)とAIの覇権をめぐって争う“武器”が揃ったと言えそうだ。
孫氏が描くビッグテックに対抗するAI戦略とはどのようなものなのか。次ページでは、その緻密で大胆な戦略の全貌に迫る。