彼はクリントン大統領の報道官を務めた危機管理専門家のクリス・レヘインを雇い、「衝撃と畏怖」戦略と呼ばれる、大規模で集中的なロビー活動を展開して、カリフォルニア州で短期賃貸を禁止する住民投票案を否決に追い込んだ。だがそれだけでなく、政治家たちにも個別に積極的に働きかけた。

「政治家はすでに君の話で持ちきりだ」とチェスキーはアルトマンに言った。

「でもその場合、彼らと直接顔を合わせることが本当に大事なんだ。知ってるだろ、足りない情報はゴシップで埋められる、とかいう古い警句を。怖がられるのが一番まずい。恐怖の特効薬は、こっちから情報を与えることなんだ」

 アルトマンは、AI規制を議会に求め、世界を回って規制への支持を示してきたが、この問題をめぐるバイデン政権との関係は少々複雑だった。

 2023年10月30日、バイデン大統領はAIの安全性を高めるための大統領令に署名した。これはアメリカ初めての本格的なAI規制であり、同年夏にバイデン政権がオープンAIなどの巨大テック企業から取りつけていた、AIの安全性確保のための自主的な約束を置き換えるものだった。

 オープンAIは大統領令の起草に深く関わり、ホワイトハウスの訪問者記録によれば、アルトマンは2023年にホワイトハウスを4度も訪れたことになっている。

 しかし、大統領令が最終的に署名され、グーグルとマイクロソフトの幹部が即座に賛意を表明するなかで、オープンAIの沈黙が目立った。

AIの脅威を危惧する派閥が
大統領令に影響を与えていた

 大統領令の最も注目に値する点は、商務省に属する研究機関「国立標準技術研究所(NIST)」の傘下に、「アメリカAI安全性研究所(AISI)」が設置されたことだ。

 所長には、のちに元オープンAI研究者のポール・クリスティアーノが任命された(この任務に就くために、アンソロピック(編集部注/オープンAIの元メンバーが設立し、競合となるAIスタートアップ企業)の理事会に当たる長期利益信託を退いた)。

 アルトマンはようやく沈黙を破ったかと思うと、おざなりの賛意を示し、大統領令には「すばらしい部分もある」が、政府は「中小の企業や研究チームのイノベーションを妨げないよう」配慮する必要があると釘を刺した。