会社を伸ばす社長、ダメにする社長、そのわずかな違いとは何か? 中小企業の経営者から厚い信頼を集める人気コンサルタント小宮一慶氏の最新刊『[増補改訂版]経営書の教科書』(ダイヤモンド社)は、その30年の経験から「成功する経営者・リーダーになるための考え方と行動」についてまとめた経営論の集大成となる本です。本連載では同書から抜粋して、経営者としての実力を高めるための「正しい努力」や「正しい信念」とは何かについて、お伝えしていきます。
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具体的に起こった事象から
論理立てて考える
ここからは、私が多くの企業に影響を及ぼすと考える外部環境の変化について、2回にわたってお話ししておきましょう。
外部環境分析では、具体的に起こった(起こっている)事象や数字などを交えて考える。さらには、論理立てて考えることが大切です。
外部環境の変化(1)
AIやロボットの発達は第四次産業革命
皆さんも最近、AI(人工知能)についての話題が多くなっていることにお気づきでしょう。AIが囲碁の世界チャンピオンに勝ったり、AIを駆使して自動運転車が開発されたりしているからです。
また、ChatGPTをはじめ、大規模言語モデルをベースにした生成AIが急速に発展したことで、AI活用の領域が格段に広がっています。AIやコンピュータ、さらにはロボット技術が、今後ますます発達することは間違いなく、それにより私たちの生活はますます便利になるでしょうが、懸念がないわけではありません。
AIとこれまでのコンピュータの違いは、すでにご存じかもしれませんが、AIは自分で論理(アルゴリズム)を考えることができるのです。従来のコンピュータでは、決められた論理をコンピュータに覚え込ませ、その論理通りにしかコンピュータは動きませんでした。例えば、人間とゴリラをコンピュータに区別させようとすると、顔のつくりや特徴の違いなどをまず論理としてコンピュータに教え、それに従ってコンピュータは判断したわけです。
しかし、AIの場合、人間とゴリラの写真を多く見せると、コンピュータがその違いを自分で論理立て、自身でその見分け方のアルゴリズムを作り出すわけです。人間が学習するのと同じ要領で、AIが学ぶのです。まさに「人工知能」と言われるゆえんです。
囲碁のチャンピオンとの対戦でも人々を驚かせたのは、これまでにはなかったような手をAIが自分で考え出して打ったことです。従来のコンピュータではありえなかったことです。このような技術を進歩させれば、自動運転車も十分に実用化されます。
しかし、AIは良いことばかりかどうかは分かりません。先ほどの囲碁の対戦では、4勝1敗でAIが勝ちましたが、敗れた対戦ではとても下手な手を打ち続け、完敗したそうです。論理的にはあり得ない手を打ち続けたとのことで、ある意味AIが「暴走」したのです。
こういうAIの暴走が医療分野や自動運転車で起こったらと思うとぞっとします。もちろん、AIの暴走を防ぐ手立ても考えられようとしており、一つは人間の感情を持ったAIの開発も進められています。
AIやロボットの進化はこれからもますます進むことは間違いありません。それを人間の幸せのためにどう使えるのか。原子力と同じ問題をはらんでいると私は考えています。しかし、経営者としてはそれらをどう活用するかを考えることは緊喫の課題です。
外部環境の変化(2)
超二極化社会の到来
もう一つの懸念は、AIが人間の仕事を奪う可能性が高いことです。
もちろん、AI関連の仕事や、これまで考えられなかったような種類の仕事は増えると思いますが、既存の仕事はかなりなくなる可能性があります。
米国では、若手の弁護士や会計士の仕事が奪われつつあります。AIが得意とするのはビッグデータの解析ですから、証拠調べや判例調べをAIが行ったり、監査のためにすべての伝票データをAIが解析したりし始めているのです。
生成AIが登場したことで、リサーチの下調べのみならず、レポートの骨子を作ったりもAIが十分にこなすようになりました。
さらには、工場での制御や自動車の自動運転などが進むと、多くの雇用が奪われる可能性があります。理論的には、ほとんどの仕事でAIがとって代わることができます。特に単純労働などが、AIやそれを組み込んだロボットにとって代わられれば、所得の二極化がますます進むと考えられます。
産業革命を振り返ってみれば、歴史的には19世紀に蒸気機関が発達したことが、その始まりですが、その本質は生産性の向上と二極化です。しかし、格段に向上した生産性で、賃金が上がったかと言えば、それほど上がらず、生産性の向上分は、資本家がほとんど取ってしまうということとなり、極端な二極化が起こったのです。
なぜなら、当時の英国では農業人口が膨大におり、それが賃金の上昇を抑え込んだからです。その後、労働運動の激化やマルクス・レーニン主義が出たことはご存じの通りです。
同じことが、2000年前後の中国で起こったと私は思っています。
外資の急速な進出で、沿岸部を中心に生産性が格段に向上しましたが、内陸部の膨大な農業人口があったため、賃金は急速には上昇せず、資本を持った人たちが生産性向上分を独り占めする形となり、二極化が急速に進みました。
しかし、19世紀から20世紀にかけての英国においても、21世紀の中国においても、内陸部の開発などにより、労働力の供給には限界が見え、さらには、労働者階級の地位向上により、二極化は縮小することとなります。
しかし、AIやロボットの供給はほぼ無制限に起こるでしょうから、今度は無制限に二極化が進む可能性があります。
すでに起こった未来
2016年にスイスで国民投票が行われましたが、私はそれが、ドラッカー先生ではありませんが「すでに起こった未来」なのではないかと思っています。
それは、すべての住民に「ベーシックインカム」として毎月大人には約27万円(子どもは4分の1)を支給するというものなのです(結局、国民投票は否決)。
先にも説明したように、AIやロボットを中心とする第四次産業革命では、その供給は能力を高めながら無限大ですから、それらを使う側の人と職を失う人との間での格差は広がる一方です。それを是正するには、政府が分配を変えるしかないのです。スイスはそれに先んじただけだと私は考えています。
今後、AIやロボットが進化すれば、まず先進国からこの分配の問題を大きく扱わざるを得なくなります。
それにともない、社会保障のあり方なども問題となるでしょう。そうなれば、富裕層のキャピタルフライト(資本逃避)や移住も頻発するかもしれません。もちろん、ビジネス環境も大きく変わる可能性があります。
(本稿は『[増補改訂版]経営者の教科書 成功するリーダーになるための考え方と行動』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO
10数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。
1957年大阪府堺市生まれ。京都大学法学部を卒業し、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。在職中の84年から2年間、米ダートマス大学タック経営大学院に留学し、MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、91年、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。その間の93年初夏には、カンボジアPKOに国際選挙監視員として参加。
94年5月からは日本福祉サービス(現セントケア・ホールディング)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。96年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。2014年より、名古屋大学客員教授。
著書に『社長の教科書』『経営者の教科書』『社長の成功習慣』(以上、ダイヤモンド社)、『どんな時代もサバイバルする会社の「社長力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』『ビジネスマンのための「読書力」養成講座』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『「1秒!」で財務諸表を読む方法』『図解キャッシュフロー経営』(以上、東洋経済新報社)、『図解「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書』『図解「PERって何?」という人のための投資指標の教科書』(以上、PHP研究所)等がある。著書は160冊以上。累計発行部数約405万部。




