「どうすればお金をかけずに、売上や利益をもっと増やせるのか」――。この切実なお悩みに答えるのが、人気の販促コンサルタント・岡本達彦氏の最新刊『客単価アップ大事典 「つい買ってしまう」販促の仕掛け75』(ダイヤモンド社刊)です。同書は、「行動経済学×現場目線」で「つい買いたくなる」販促の仕掛けとは何かを言語化した初の書。本書が提示するのは、「お客様の購買行動そのものを変える設計とは?」です。どうすれば、「利益が残る経営」へと変われるのか? 本連載では、同書に収録されている75の事例の中から、特に現場で導入しやすく、成果につながりやすい客単価アップの仕掛けを厳選して紹介していきます

なぜスーパーの卵や牛乳は、売り場の一番奥に置かれているのか?Photo: Adobe Stock

「ちょっと卵だけ買おうと思ったのに」の理由

 スーパーに入って、卵や牛乳を買おうと思ったら、必ずと言っていいほど売り場の一番奥まで歩かされます。レジの近くではなく、野菜や肉、お惣菜コーナーを通り抜けた、そのはるか先に置かれているのです。

「なんでこんなに遠いんだ?」と思ったことはありませんか?

 実は、この「遠回りさせる配置」こそが、スーパーの売上を大きく支える、「思わず買ってしまう」行動を最大化するための、計算された販促戦略なのです。

「歩くルート=売上」の方程式

 スーパーでは、お客様の歩くルート(通り道)が、そのまま売上に大きく影響します。

 卵や牛乳は、ほとんどの家庭が「必ず買う」「絶対に必要」という、お店にとっての「集客商品」のようなもの。

 これを手に入れるには、必ず店内の隅々まで歩かなければならない構造にすることで、お客様は売り場にあるあらゆる商品を目にすることになります。

 つまり、「卵を買う」という一つの目的が、「店内をひと通り回遊する」という行動に強制的に結びつけられているのです。

 この戦略は、「単純接触効果」の応用です。

 人は、何度も繰り返し目にしたり、触れたりしたものに対し、特に意識的な理由がなくても好意度や親近感が増すという性質があります。

 回遊行動を通じて多数の商品に「接触」させることで、無意識のうちにそれらの商品に対する購買への心理的な障壁を下げているのです。

目に入ると、
脳は勝手に「買う理由」を探し始める

 人は、棚に並んだ商品を見ると、無意識のうちに「自分に必要かどうか」「今買うべきか」を判断し始めます。

 本来は卵だけを買うつもりだったのに、歩いている途中で、

 ・「あ、今日トマトが安いな。ついでに買っておこう」
 ・「牛肉が特売だ。急にすき焼きが食べたくなってきた」
 ・「そういえばマヨネーズが残り少なかったかも、念のため買っておくか」

 といった、急に欲しくなる気持ち(衝動)が生まれます。

 この「目に入った瞬間に生まれる衝動」を生み出すために、奥に目的の商品を配置して「歩かせる」ことが、お店側の大きな狙いなのです。

 これは、「利用可能性ヒューリスティック」の原理に基づいています。「利用可能性ヒューリスティック」とは、脳はすぐに思い浮かぶ情報(=目に入った商品)を、「重要度が高い」「必要性が高い」と誤って判断しがちということです。

 通路で商品が目に入ることで、「そういえば必要だった」という記憶の検索が促進され、購買行動につながりやすくなります。

「気持ち良く買い物を終える」ための
最後の配置(ナッジ効果)

 では、逆に、入り口付近に卵や牛乳を置いたらどうなるでしょうか?

 お客様はそれだけを手に取り、「レジに直行」してしまい、他の商品を見てもらえません。それでは売上チャンスを失ってしまいます。

 また、卵や牛乳は冷蔵品であり、「買ったあとに暖かい売り場をうろうろしたくない」と思われる商品でもあります。だからこそ、買い物の最後に取るべき商品として、出口に近い奥の冷蔵棚に配置されるのです。

 この配置全体が、行動経済学における「ナッジ」の設計そのものです。「ナッジ」とは、人々の意思決定の自由を奪うことなく、「動線設計」によって、望ましい方向(この場合は多く買う方向)へと行動をそっと誘導する手法のことです。

 スーパーの配置は、お客様の「卵を買う」という目的を満たしつつ、「他の商品も見てから帰る」という行動をストレスなく促すための、巧妙な「ナッジ」設計になっているのです。

他のお店でも使える
「目的地は遠くに置く」販売設計

 この「奥に配置してついで買いを促す」という考え方は、スーパー以外の小売店でも広く応用できます。重要なのは、「売れ筋商品(お客様が必ず欲しい商品)」をあえて遠くに置き、その途中でどれだけの商品との出会いを設計できるかです。

 ・文具店:ノートや定番のペンは一番奥に置き、その通路に新作の雑貨や季節限定品を配置する
 ・パン店:食パンは奥に置き、途中に菓子パン、お惣菜パン、焼き菓子を配置して「ついで買い」を誘う
 ・ドラッグストア:日用品(洗剤、ティッシュ)を奥に配置し、その途中に美容・健康に関する商品を並べる

まとめ

 スーパーの奥に卵や牛乳があるのは、ただ冷蔵スペースがそこにあるからではありません。それは「お客様を自然に店内に誘導し、買い物かごをどんどんいっぱいにするための道筋作り」なのです。

 しかもお客様自身は、誘導されていることに気づかない。だからストレスにならず、買い物体験としても「満足感」が残るのです。

 あなたのお店にも、「必ず買うもの」をあえて遠くに置くという「ナッジ」設計を導入することで、「単純接触効果」や「利用可能性ヒューリスティック」を最大限に引き出し、売れる道筋を設計できるポイントがあるはずです。

(本稿は客単価アップ大事典 「つい買ってしまう」販促の仕掛け75の一部を抜粋・編集したものです)

岡本達彦(おかもと・たつひこ)
販促コンサルタント
現場目線ですぐ使えるマーケティングを伝える第一人者。
広告制作会社時代に100億円を超える販促展開を見て培った成功体験をベースに、むずかしいマーケティングや心理学を使わず、
アンケートやマンダラ等を活用して、誰でも売れる広告を作れる手法を体系化する。
業界を問わず即効性が高く、お金をかけずに売上を上げられることから、全国の商工会議所・経済団体などからセミナー依頼が殺到する。
初の著書『「A4」1枚アンケートで利益を5倍にする方法』(ダイヤモンド社)は、Amazon上陸15年、「売れたビジネス書」50冊にランクインする。
他の著書に、『お客様に聞くだけで「売れない」が「売れる」に変わるたった1つの質問』
『あらゆる販促を成功させる「A4」1枚アンケート実践バイブル』
『「A4」1枚チラシで今すぐ売上をあげるすごい方法』『「マンダラ広告作成法」で売れるコピー・広告が1時間でつくれる!』(以上、ダイヤモンド社)等がある。