「これじゃ、予定のセリフが入らないよ」
「どうしよう、無理かも」

 僕たちは頭を抱えることになった。頭を抱えたものの、何とかするしかないのだ。

昔ながらの「音の使い回し」で
メモリー不足を打破

 さて、ここからちょっとばかり、ややこしくて面倒くさいことを書くので、なんとか我慢してつきあってもらいたい。

 具体的なことを書くと複雑になるので結論だけ書くけれども、最終的に僕たちは録音したセリフをぜんぶバラバラにして、同じ単語を使い回す方式を採用した。

「1番」のカードをお持ちのお客様は「2」「10」「5」番窓口へお越しください。
「3番」のカードをお持ちのお客様は「10」「9」番窓口へお越しください。

 これは今でも古いシステムではときどき使われているから、もしかしたら耳にしたことがあるかもしれない。

 僕に課せられたのはこのやり方を使いながら、ぎこちなさをなくすことだった。

 19番と25番とでは「じゅう」のイントネーションが異なるから、2通りの「じゅう」を用意する。20番と25番では「じゅう」だけでなく、「に」のイントネーションも変わるから「に」も2通り用意する。

 数字だけでなく、セリフに使われているありとあらゆる単語の組み合わせをつくって、ぎこちなさをなくしていく作業である。

 実際に単語を組み合わせて、どこかぎこちないなと感じたら、その単語だけを新しく録り直して追加するのだ。

 もちろんナレーターや声優さんにお願いしたら莫大な費用がかかるから、セリフを話すのは僕である。自分で読んで、自分で録音して、自分で単語に切り分けて、自分で組み合わせて、自分でチェックして、自分で録り直す。

 暗い防音室の中で、ひたすらその作業を繰り返し続けるのである。

夢中になって開発に取り組み
やっとの思いでゲーム機は完成

 僕はこの仕事に夢中になった。やればやるだけ結果が良くなるのだからおもしろい。

 まちがいなく世界を少し変えている実感があった。やる前とやったあとで確実に何かが変わるのだ。