課長として成果を挙げていたのに、部長に昇進してみると、なぜか仕事がうまく回らなくなってしまった…という人は実は少なくない。新任部長がつまずく場合に7つの典型的なパターンがある、というのは多くの企業幹部候補生を指導してきたグロービス経営大学院である。累計180万部超の書籍「グロービスMBA」シリーズに新たに加わった、部長職以上を目指す人のための『グロービスMBA エグゼクティブ・マネジメント入門』より一部をご紹介する。

グロービスPhoto: Adobe Stock(写真はイメージです)

新任部長が抱えやすい課題

 課長としては一定の成果を挙げられていたにもかかわらず、部長になると仕事が円滑に進められない、という例は少なくない。では、なぜ彼らはつまずいてしまうのか。

 理由はさまざまあるが、グロービスがこれまで人材育成・組織開発事業を通じて数多く見てきた中で、典型的なパターンは以下の通りである。

・経営、特に戦略の理解不足によるもの
・マネジメントやリーダーシップスタイルによるもの
・部長の役割に対する理解不足によるもの

 それぞれについて、さらに詳細に説明していく。

◉経営、特に戦略の理解不足

❶戦略的思考、経営的視野の不足
 課長に求められるのは、主に短期的かつオペレーショナルな目標達成である。そのため、具体的な業務遂行や直接的な問題解決が中心となる。部全体の計画策定に加わる機会もあるが、その関与は限定的である。言い換えれば、PDCA(Plan-Do-Check-Action:計画、実行、評価、改善)を回すレイヤーや範囲は、必ずしも高く広い必要はない。

 これに対して部長は、部全体の長期的なビジョンと目標を定義し、それに基づいて戦略を策定し、資源を適切に配分しなければならない。そのためには外部環境(市場のトレンド、競争状況、技術進歩など)の分析を行う、あるいは部下に指示して実施させるとともに、内部環境(部署のスキルや能力)を把握し、効果的な計画を立案する必要がある。より高いレイヤー、広い範囲でPDCAを回さなければならないのである。

 戦略的思考や経営的視野が未熟な部長は、往々にして主体的に動けず、受け身な対応に追われがちとなる。また、部門内のチーム間や、部門横断的な協業を促進する戦略を欠くことになり、結果として組織全体のシナジーを損なう。

 部長として成功するためには、個々の業務を超えた広い視野を持ち、組織全体の未来を見据えて戦略を定期的にレビューし、必要に応じて修正することが求められる。戦略的思考や経営的視野を養うには、継続的かつ体系的な学習が不可欠であるが、それを十分身につけられている部長はそう多くない。

❷部門間のコンフリクトに対応できない
 たとえば、製造部門は生産コスト削減を重視し、品質管理部門は製品の品質向上を優先するだろう。こうした対立は当然生まれる。評価がそれぞれの成果に直結するためである。両方を一定以上のレベルで実現できれば理想だが、実際にはトレードオフが生じる。経験の浅い部長は自部署の利益にこだわりすぎて、全体最適から外れた主張をしたり、調整に時間を多く割きすぎたりすることがある。

 一例として、あるIT企業では、新しい技術への投資と既存サービスの維持の間で、リソース配分をめぐる対立が生じた。開発部長は新技術の研究に重点的な予算配分を求めた一方、カスタマーサポート部長は顧客サービスの質を維持・向上させるための人員と予算の増加を主張した。この事例では経営陣が仲裁に入り、まずは顧客満足度を上げる施策を優先し、その成果が一定水準に達した段階で、開発部門に優先的に投資する方針が決定された。

 全体最適を実現するためには、やはり経営全般に対する知識が不可欠である。前述の例であれば、カスタマーサポートを充実させ顧客満足度を高めることが、どのような意味を持つのかを正しく理解する必要がある。顧客満足度の向上は一般的に、リピート率の上昇、客単価の増加、社内外へのクチコミの拡散、値引き要求の低下、ブランドスイッチの抑制などにつながるといわれる。「顧客満足は最も費用対効果の高いマーケティング」であるといわれるゆえんである。開発部長としても、全社的な視点に立つならば「良い製品を出すことこそ正義」という意識では不十分なのである。

◉マネジメント力やリーダーシップの不十分

❸リーダーシップスタイルの変化に対応できない
 課長としてのリーダーシップスタイルは、多くの場合、部下に直接指示を与える指示型の比率が高い。エンパワメント(権限移譲)を行っていたとしても、部下の仕事ぶりを近くで観察できるため、コーチングもしやすい。また、「いざとなれば自分が引き受ける」という姿勢も通じやすい。しかし、このスタイルは部長には適さない。

 部長として成果を挙げるには、エンパワメントをそれまで以上に効果的に行う必要がある。この変化・進化がうまく行えなければ、部下は主体性を発揮する機会を失い、モチベーションが低下し、スキルの成長も妨げられる。結果として、部全体の意思決定が遅れがちとなる。

 さらに、部長には組織全体のビジョンを理解し、サポートするとともに、それを基盤に自部署のビジョンを策定し伝達することが求められる。マネジメントは必要であるが、それに過度な時間を費やせば、組織全体の目標達成を妨げるおそれがある。

 このようなリーダーシップスタイルの問題は、とりわけ環境変化が激しい場合に顕著となる。変化に対応するためには、部長は前例にとらわれず、新しいアイデアやアプローチを募り(あるいはみずから考え)、積極的に推進する姿勢が欠かせない。それができなければ、変革は挫折する可能性が高くなる。

❹コミュニケーション能力の不足
 部長ともなると、経営陣や外部の重要パートナーをはじめ、より広範なステークホルダーと交渉し、複数の部門やチーム間で最適解を模索することが求められる。また、必ずしも1対1ではなく、多くの部下に語りかけ、彼らを鼓舞することも重要となる。そのため、課長時代に比べ、より高度なコミュニケーション能力が必要である。

 単に論理的に説明するだけではなく、レトリック(修辞法:比喩、ストーリー、反復、強調など)を用いて情動に訴え、相手のやる気を引き出す表現力も欠かせない。さらに、非言語コミュニケーション(ボディランゲージなど)を読み取り、活用する能力もこれまで以上に重要となる。

 コミュニケーション能力が不足すれば、部下や同僚、経営陣、外部パートナーとの関係を円滑に構築できず、多くの問題を引き起こすことになる。

◉部長の役割に対する理解不足

❺マイクロマネジメント型から脱却できない
 課長は個々の業務に深く関与し、部下に対して細かい管理を行うことが求められる場合が多い。プレーヤーとして一定の働きを求められることも少なくない。しかし部長はそうではない。課長や係長、メンバーたちが自律的に働けるよう支援することが期待される。

 部長が課長時代の働き方から脱却できない場合、部下のスキル向上やモチベーションを阻害し、創造性の発揮を妨げる。さらに細部にこだわりすぎると、本来の職務がおろそかになり、組織の成長機会を制限してしまう。

❻時間の使い方が不適切
 課長であれば、業務時間の60~70%を課のマネジメントに使い、残りの時間をプレーヤー活動や自己研鑽に充てても十分機能するだろう(参考:リクルートマネジメントソリューションズ調査)。

 しかし部長ともなれば、全社的に重要な業務に時間を投じる必要性が高まる。計画策定や部署ビジョンの策定、他部署との調整や交渉、外部リソースの調達、仕組みづくりなどである。これらの業務に40~50%を充て、部下のマネジメントは課長をテコとして40~50%で行うことが望ましい(組織の規模や部下の成熟度により変動する。参考:同上)。

 プレーヤーとしての時間は意識的に減らすべきである。営業部長が重要顧客の訪問に同行すること自体はまったく問題ないが、自身がプレーヤーとして目標数値を持ち、その達成に腐心することは好ましくはない。特に、プレーイングマネジャーとして成果を残した課長、なかでも時間の過半をプレーヤー業務に投じて実績を残してきたタイプの課長であったほど、この転換に苦労する。

❼重要な意思決定から逃避、あるいは労力の空費
 たとえば、あるメーカーの製品開発部長には新製品の開発の決定権が与えられていた。そこには数億円規模の投資やパートナー企業の選定も含まれる。部長は戦略を策定し、経営資源を動員して新製品を市場に投入し、その結果に大きな責任を負う。この意思決定は、企業全体の収益やブランドに直結する。成功すれば、数億円から数十億円規模の利益をもたらす可能性もある。

 こうした重要な局面こそ手腕の見せどころであるが、自信を欠いたり、利害関係者にとって不利益となる判断(例:長年お世話になったサプライヤーとの取引を停止するなど)が含まれると、必要以上に気を病み、意思決定を遅らせたり過度に経営陣を頼ろうとしたりする部長もいる。もちろん経営陣による承認は必要だが、最終的な選択肢を起案する責任は、執行責任者である部長にある。それを適切に行えない部長は評価を下げ、重要な意思決定を任される機会が減り、結果としてスキルも伸びないことになる。

 以上は、新任部長が陥りやすい典型的な罠である。課長として優秀であったがゆえに、かえって抜け出せない場合も多い。これらを回避するには、まず「部長は課長の延長ではない」という意識を強く持つことが不可欠である。そのうえで、部長としてのスキル開発に努め、最大のリソースである時間の使い方を意識的に変えていく必要がある。

 人は断続的な変化を急に乗り越えることは難しい。その事実をあらかじめ理解し、乗り越えていく心構えを持つことが求められる。