情報を指揮し行動に移す能力は70代でも向上する

 現代の企業経営は、昔に比べてルールが複雑になり、一度のコンプライアンス違反が企業の存続そのものを揺るがす事態になりかねない。CEOは、財務報告の正確性に個人的な責任を負い、違反すれば巨額の罰金や実刑さえ科されるリスクにさらされている。

 このような「失敗が許されない」高リスクな環境下では、勢いだけの若者よりも、長年の経験を通じてリスク管理能力を証明してきたベテランの方が、市場から「プレミアム(割増価値)」を支払うに値すると評価されるのである。

 一方で、政治の世界は事情が異なる。政治リーダーには、刻一刻と変化する国際情勢に即座に反応し、予期せぬ危機に対して瞬時に決断を下す「瞬発力」が必要になる。残念ながら、この種の能力は加齢とともに低下しやすいことが科学的に指摘されている。

 2024年にイギリスのBBCが特集した記事の中で、政治家と年齢に関する神経科学的な見解が詳細に示されている。

《『認知的柔軟性』は、思考や問題解決において、政治指導者が不確実性やリスクの下で質の高い意思決定を行うために秀でていなければならない不可欠な認知形式である。これらの種類の決定は、多くの場合、時間的な制約もある。(中略)しかし、認知的柔軟性は通常、時間の経過とともに低下する》(『Should we be worried about older politicians?』BBC、2024年)

 ここにある「認知的柔軟性」とは、新しい状況に合わせて考えを切り替える力のことだ。この機能は加齢とともに低下しやすいため、政治家にとっては致命的になり得る。

 しかし、ビジネスにおいては、コロコロと考えを変えることよりも、一度決めた戦略をやり抜く「一貫性」や、過去の膨大なデータから最適解を導き出す「結晶性知能(経験によって蓄積された知恵)」の方が重要になる場合が多い。

 BBCの記事でも、情報を指揮し行動に移す能力は70代に入っても向上する可能性が示唆されている 。御手洗氏が持っているのは、まさにこの結晶性知能の極みである。