話し方についての本は数あれど、“おもろい話し方”というテーマの本はなかなかないのではないか。「ネタのゴーストライター」という元芸人のネタ作家が著者となり、ロングセラーになっているのが、『おもろい話し方――芸人だけが知っているウケる会話の法則』だ。もちろん芸人の笑いの真似はできないが、そのエッセンスで雑談力を高めることはできるという。今よりちょっとだけおもしろく話せるようになる、その極意やお作法とは?(文/上阪徹、ダイヤモンド社書籍編集局)
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「鉄板ネタ」は大きな武器になる
商談の場から日常的な雑談まで、もっとうまく話せるようにならないものか。
そんなふうに感じている人は少なくないだろう。
だからなのか、話し方やコミュニケーション術をテーマにし、ベストセラーになっている本はたくさんある。本書もそんななかでロングセラーとなっている1冊だ。
大きな特色は、著者の芝山大補氏がキングオブコントの準決勝にも進出した元芸人であり、今は「ネタのゴーストライター」というネタ作家であること。
まさにお笑いのプロが“おもろい話し方”について教えてくれる本なのである。
思うように話せないのは、性格や会話のセンスに問題があるからではない、と著者は記す。
ただ単に「ちょっとした会話のコツ」を知らないだけなのだ、と。ほんの少し意識を変えたり、表現を変えたりするだけで、会話の盛り上がりやウケ具合、相手の印象は大きく変わるのだという。
第4章の“芸人が本当は教えたくない「すべらない話」秘伝のレシピ”では、いざというときのための、鉄板のエピソードトークの作り方について説く。
飲み会や合コン、プレゼンのアイスブレイクなど、さまざまなシチュエーションで笑いが取れ、その後のコミュニケーションにも良い影響を与えるからです。(P.174)
では、どうやって「すべらない話」をつくるか。一番いいのは、誰が聞いても笑える状況に遭遇すること。しかし、そんな体験は滅多にあるものではない。
現実には、「ちょっとおもしろい瞬間」をキャッチし、おもしろく“ちょい盛り”する。それが芸人たちがやっているすべらない話のつくり方だという。
失敗談は笑いが取りやすく、良いネタになる
まずは日常に潜む「ちょっとおもしろい瞬間」を見つけ出すコツが4つ紹介される。
一つ目は「ギャップを感じた瞬間」への注目。
「いつもは怖い先生がコケた」「社長なのに会計で『細かいのあります』と言っていた」「コワモテな人がお花を摘んでいた」といったギャップを感じた体験は、すべらない話の良いネタになる。
「お金持ちなのにケチ」「強そうなのにビビり」「子どもなのに大人っぽいことを言う」など、ギャップを感じる瞬間は、日常で意外と多く出くわすもの。意識して探してみるといいという。
コツの二つ目は、「誰が言うてんねん!」を探す。
「そもそも誰が言うてんねん!」「オマエに言われたないわ!」とツッコミを入れたくなる瞬間も話のネタになりやすいもの。「そもそも、この人がそんなことを言ったり、やったりするのはおかしくない?」という瞬間だ。
・ショッキングピンクのネクタイをしたビジネスパーソンが、部下の女性に「ちょっとそのネイル派手じゃない?」と注意していた(P.176)
そんな「誰が言うてるねん!」と言いたくなる瞬間に出会ったら、メモしておくといいという。
著者は、スマホのメモ機能にすぐに書き込むようにしているそうだ。おもしろい体験も、数日後には忘れてしまうからである。
コツの三つ目は「◯◯すぎる人」に注目する。
「ガサツすぎる」「彼女・彼氏が好きすぎる」「虫が嫌いすぎる」「お金に細かすぎる」「人に優しすぎる」「流行に敏感すぎる」など、そういう人がいたら、その行動に注目するといいという。必ずおもしろいネタが舞い込んでくる。
コツの四つ目は「失敗はいつだってメモ」。
失敗談は笑いが取りやすく、良いネタになる。人は、誰かの不幸や失敗が大好きだからだ。
「失礼系」「勘違い系」「言い間違い・覚え間違い系」です。(P.178)
失敗系とは、うっかり失礼なことをしてしまった体験。「友達に彼氏の写真を見せられて、彼氏だと気づかずに『ニートみたい』と言ってしまった」「職業がライターだと知らずに、『書き方を教えようか?』と言ってしまった」など。
勘違い系は、勘違いで恥をかいてしまった瞬間。「年下だと思ってタメ口で話していたら年上だった」「ナンパかと思って断ったら、ハンカチを拾ってくれた人だった」など。
言い間違い・覚え間違い系は、「母親が間違えて『トトロ』のことを『トロロ』とLINEしてきた」「プレゼンで『パワーポイント』のことを『パワースポット』と言ってしまった」など。母親のトトロの話は、実際にエピソードトーク例が紹介されている。
「おもしろ改善点」を探してエピソードを盛る
そしてこうしたちょっとおもしろいネタを“話を盛る”ことで、よりおもしろくすることが大事になる。少なからず話は盛らないと笑いになるエピソードにはならないというのだ。では、どうやって盛るのか。
話を盛るときに大切なのは、「この話、もう少しこうだったらおもしろいのにな」というポイント、いわば「おもしろ改善点」を探すことだという。
たとえば、シャワーを浴びたら熱いお湯が出てきて、それを彼女に話したら冷たくあしらわれた、という「ちょっとした出来事」が、「おもしろ改善点」を探して盛るとこんなふうになる。
めちゃくちゃ冷たい水が出てきて「冷たぁぁ!」ってなったんだよ。
その話を彼女にしたら、
「へぇー、そんなんだ」ってめちゃくちゃ冷たくあしらわれて、
シャワーよりよっぽど冷たかったわ!(P.184)
最後の「シャワーより彼女の対応のほうがよっぽど冷たかった」というオチをつくるために、「熱いシャワー」を「冷たいシャワー」に変えている。「おもしろ改善点」がここにあったわけだ。
ただ、どこまで盛るか、はなかなか難しい。著者は、上手に話を盛れるかどうかは「自分が事実として、自然に話せるか」にかかっていると記す。人によって「真実として語れるライン」は違うのだそうだ。
そして嘘っぽい話に信憑性を出す2つの方法も紹介されている。一つは「リアルな描写を入れる」こと。嘘っぽく聞こえないようにするテクニックだ。
雨の日に道で思い切り転んだ人がいた。これだけでも笑える話になるが、そこに「リアルな描写を入れる」。たとえば、「渋谷のスクランブル交差点のTSUTAYAの前あたりを歩いてたら、40代くらいの小太りのおっさんが」と入れると、一気に映像が頭に浮かぶ。リアルな描写は、芸人もよく使うテクニックだという。
もう一つが「予防線を張る」。嘘ではない、とあらかじめ予防線を張っておくのだ。
・ホント、信じられないと思いますけど
・絶対、嘘やと思われちゃうんですけど
・作り話かと思われるレベルなんですけど(P.189)
予防線を張ることでリアリティを出すことができるという。「ちょっとした工夫」がエピソードトークのレベルを高めるのだ。
第4章では他にも「どんな話も長すぎるとウケない」「一気に話に引き込む上手な前置き」「ネタ作家の本気のトーク添削」などが解説され、第5章では「自分に合った笑いの取り方がわかる!お笑いタイプ診断」が展開される。
さすが人を笑わせるプロのテクニック。「おもろい話し方」のコツがたくさん潜んでいる。
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『東京ステーションホテル 100年先のおもてなしへ』(河出書房新社)、『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか』(日経ビジネス人文庫)、『彼らが成功する前に大切にしていたこと』(ダイヤモンド社)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。




