「それでどうしましたか?」

「彼は本当に興味深く聞いてくれて、どんどん話しているうちに自分の今とか未来とかがよく見えるようになってきて、自分のビジョンがはっきりしたような気がしたんです」

「その人がビジョンを見せてくれたのですか?」

「いいえ、その人はただ私の話を聞いてくれただけです。アドバイスも何もありませんでした。私のほうから聞いたんです。『私のビジョンを実現するのにマッチする会社はありますか?』と。すると『いくつか候補はありますが、あなたが直接その会社の人と会って話してみるのがいいと思います』と言われました」

「それであなたにマッチする会社が見つかったんですね」

「そうです」

話を聞く態度を理由に
転職しようと決意した

「転職しようと思った一番の動機はなんでしょう?」

「最初はそのヘッドハンターに話を聞いてもらうのがとても自分を整理するのに役に立ちました。それにその人は最初から最後までよく話を聞いてくれたんです」

「話を聞いてくれた、それだけですか?」

「はい」

「どうして、話を聞いてもらうことが転職の理由になるんですか?」

「会社で私の話を聞いてくれる人なんて誰もいませんでしたから。必要最小限の業務上の報告会のみでした。それが当たり前だと思っていましたが、そうではないのですね」

 彼女へのインタビューはそこまでで終わりました。そのコンサルタントはこう話してくれました。

「これまで私は、組織におけるコミュニケーションは無駄なく、機能的であるべきだと思っていました。それに自分では彼女の話を聞いているつもりでした。でも彼女は聞かれているとは思っていなかったんですね。話を聞かないというだけで、優秀な人が去ってしまったんです。話を聞くことは大事だとは思っていましたが、それよりは意味のあることを発信することのほうが価値があると思っていました。もしかすると相手の話を聞けるようになることのほうが価値があるのかもしれません。実際、それを求めている人が大多数なのだと最近思います」