効率重視の仕事ぶりは
ときに無礼に見えることも

 私もドイツに来たばかりの1990年代には、レストランや商店でのサービスの悪さにむっとすることがあった。しかし34年も住んでしまうと、「こんなものだ」と思い、サービスが悪くても目くじらを立てなくなった。

 たとえば私は数年前、ハイデルベルク大学で講演をした後、日本から来ている研究者や学生たちと、ドイツ風の居酒屋へ行った。すると、ウエイトレスが、ビールのグラスの下に敷くコースターを、客の前に1枚ずつ置かずに、客に向かって手裏剣のように投げた。ちょっと日本では考えられないような無礼さだった。

 ドイツに数年住んでいるという日本人の研究者は、「私は、何年ここに住んでもこういう態度には絶対に慣れることができない」と言って怒った。

 私は、とくに無礼だとは感じなかった。「このウエイトレスは、客1人1人の横に行ってコースターを置くのは面倒だと思ったので、効率的にコースターを置くために、投げたのだろう」と思った。

 私が腹を立てなかった理由の1つは、顧客に名刺を手渡さないで、机の上に投げてよこすドイツ人のビジネスパーソンを見たこともあったからである。

 ここは日本ではないのだから、相手に対する期待値を下げること、日本のような丁寧な態度を相手に期待しないこと、これが心の平穏を保つための秘訣だ。腹を立てて不快な思いをするのは、自分なのだから。

「お客様第一主義」の行き着く先は
労働時間の増加と生産性の低下

 日本の場合は、ドイツの商店やレストランに比べると「お客様第一主義」が徹底している。そうすると、やはり労働時間が長くなってしまう。

 ドイツには「お客様第一主義」という考え方はそもそもない。彼らは労働時間を増やすことにつながるサービスは引き受けない。客が気を悪くしても、関係ない。

 たとえばミュンヘンのある自動車修理工場では、電話かウェブサイトでアポイントメントを取り、その時刻に車を持ち込まなくてはならない。

 私はある時、タイヤを冬期用のタイヤに交換してもらうために、アポを取り修理工場に車を持っていった。その少し前に、車の右側のヘッドライトの電球が暗くなっていたことに気づいたので、修理工場の受付で「ついでにライトも修理してもらえませんか」と頼んだ。

 ところが相手は「このアポは、タイヤの交換だけです。ライトの修理には、別のアポを取ってもう1回来て下さい」と言って譲らなかった。

 日本ならば、「お客様が二度手間にならないように」と考えて、タイヤ交換だけでなくライトの修理もするのは当たり前だ。その日本の当たり前が通用しないのがドイツである。彼らはこうやって社員の労働時間が長くなったり、生産性が下がったりするのを防ごうとしているわけだ。

 ものは考えようである。市民みんなが発想を切り替えて、高度なサービスを期待しなければ、それだけ多くの人が夕方に早めに帰宅したり、長い休みを取ったりすることができるようになる。ドイツはそれをすでに実現している社会なのだ。