自衛隊には、「建制の保持」という原則があります。ひと言で言えば、指揮の流れを断ち切らない仕組みです。指揮権は鎖のように連なっており、誰かが不在になれば、次の者がワンテンポ遅れずに意思決定を引き継ぐ。だから現場は混乱せず、任務は「止まらない組織」によって完遂されるのです。
指揮体系の「見える化」で
集団の意識は変えられる
私はある訓練の前、隊員を「指揮を継承する順番」に整列させました。先頭に立つのは中隊長である私。その後ろに2人の小隊長、分隊長、班長、班員――。誰が誰の前に立ち、命令がどのように流れていくのかがひと目でわかるようにするためにです。
最初はとまどう者、キョロキョロ右往左往する者、照れる者もいましたが、やがて上位者が自然に秩序を与え、静かな緊張感が走りました。自分がどの位置に立つのか。そのなかに背負う責任が浮かび上がるのです。
この「並び」には、3つの効果があります。
(1)役割の自覚
自分の後ろにいる仲間の行動に責任を持つ意識が芽生える。
(2)主体性の習慣化
上位者不在のとき(究極を言えば戦死したとき)は、自分が指揮を執ると想定して動くようになる。
(3)信頼の構築
命を預け合う関係に、パワハラやセクハラも入り込む余地がないと悟る。
その結果、「遊兵」は自然と減り、全員がセルフスターター(編集部注/指示を待たずに、自分で考えて自律的に行動できる人)として動きはじめたのです。
ある訓練では、私が不在のまま「訓練検閲」を受けるという異例の事態がありました。異例というのは、この訓練は上級部隊による公開試験で指揮官の不在はありえない状況です。
じつはそのとき私は、海外派遣に向けた訓練があり、現場を離れざるをえませんでした。その瞬間、小隊長は中隊長に、分隊長は小隊長に――と、それぞれが一段上の責任を担うことがリアルに求められたのです。
しかし、彼らの口から出たのは不満の声ではなく、前向きな言葉でした。
「思うところはありますが、挑戦できて感謝です!」
「もう腹はくくりました」







