英語教育に力を入れても、グローバル人材は育たない!? ハーバード留学経験を持つティーチ・フォー・ジャパン代表の松田悠介さんと、世界経済フォーラムのヤング・グローバル・リーダーとして活動している実績を持つ藤沢久美さん。おふたりに、誤解だらけのグローバル人材について語ってもらった!(全3回:撮影 宇佐見利明)

「英語教育=グローバル人材育成」ではない。
英語が完璧でなくても、ハーバードに合格

松田前回、日本ではリーダーシップが誤解されているという話をしました。同じように、誤解されやすいのが「グローバル人材」です。日本では「グローバル人材=英語力」と結びつけられがちですが、藤沢さんはどう思われますか。

藤沢 これは松田さんに語ってもらったほうがいいんじゃないですか(笑)。ご著書『グーグル、ディズニーより働きたい教室』にハーバードの大学院を受験したときのエピソードが載っていましたが、あれがすべてを物語っていると思います。

松田悠介(まつだ・ゆうすけ)
全米で就職ランキング第1位になったティーチ・フォー・アメリカ(TFA)の日本版「ティーチ・フォー・ジャパン(TFJ)」
創設代表者。1983年生まれ。
大学卒業後、体育科教諭として中学校に勤務。体育を英語で教えるSports Englishのカリキュラムを立案。その後、千葉県市川市教育委員会 教育政策課分析官を経て、ハーバード教育大学院修士課程(教育リーダーシップ専攻)へ進学し、修士号を取得。卒業後、
外資系コンサルティングファームPricewaterhouseCoopers にて人材戦略に従事し、2010年7月に退職、現在に至る。世界経済会議Global Shapers Community メンバー。経済産業省「キャリア教育の内容の充実と普及に関する調査委員会」委員。

松田 僕のTOEFLの点数が、ミニマム・リクワイアメント(合格のための最低必要条件)に達していなかったという話ですね!

 ハーバードのミニマム・リクワイアメントは110点だったんですが、僕はTOEFLを何度か受けたんですが、結局、最高104点で、最後まで基準には達しなかった。

藤沢 それでも、合格したんですよね。

松田 はい。試験にはパーソナル・ステートメントというエッセー(論文)の提出が求められるのですが、そちらが評価されたようです。

藤沢 英語力が足りなくてもハーバードに合格したのは、松田さんのエッセーで語った中身が評価されたからですよね。結局、英語はツールに過ぎません。そのツールを使って何を伝えるのかが大事なのに、ツールのほうばかり注目されるのは間違っているのでは…と思います。

松田 英語はあくまでツールに過ぎないとすると、グローバル人材の本質は何でしょう?

藤沢 それは、多様性を受け入れることだと思います。世界経済フォーラムのヤング・グローバル・リーダーでハーバードのケネディスクールに2週間の研修にいったとき、象徴的なシーンに出くわしました。そこではCO2の排出権取引についての講義が行われていたのですが、先生の意見に対して、中国やイランの人が「それはアメリカの論理だ」と言って正面から反対しているんです。

松田 先生に対してでもちゃんと意見を言うんですよね。でも意見が違うからといって、それは相手を否定することではない。日本人はどうしても意見が違うと相容れないものだと思ってしまうことが多いんですが…。

藤沢 私たちは世界の標準に合わせることを「グローバル化」と考えがちです。しかしハーバードで見たのは、お互いに価値観や文化が違うことを踏まえたうえで議論をしようという姿勢でした。そうした姿勢を持つことこそがグローバル人材の条件だと思います。

松田 たしかにハーバードは多様性を重視していると思います。次の年の入学者を選ぶ選考委員会では、今年はアジア人を何人入れようとか、ヒスパニックを何%にしようというように、多様な人種が混在するように学習環境を設計しているんです。

 人種だけではありません。日本の教職大学院は多くが先生出身です。一方、ハーバードは現場の先生出身もいれば、校長経験者や教育長候補生、それにゴールドマンサックスやアクセンチュアといったビジネス畑出身の人もいました。珍しいところでは、某国の元教育大臣もいましたよ。

藤沢 すごい、大臣クラスの政治家も同じ教室で学ぶんですね。

松田 はい。背景が多様な人たちと一緒に学ぶので、「こういう考え方もあるのか」と毎日、いろいろな発見がありました。あの環境があったからこそ、視野が広がった気がしますね。

藤沢 それに対して、日本は点数でバッサリと切るので同じようなタイプの人ばかりになってしまう。日本からグローバル人材を輩出したければ、まずそこから変えていかないといけないと思います。