サウジアラビアでは
国民の9割近くが公務員!

藤沢 たしかに日本は国家として一枚の絵を描ききれていない印象を受けます。いろんな国に行って話を聞くと、「我が国をこういう国にしたい」というビジョンがあって、それに基づいて人材を育成したり、教育制度を整えたりしています。

松田 教育をやっていると、とくにそのことを感じますね。一応、国として何らかの目標を掲げてはいますが、文科省と経産省でこれから育てたい人材が違ったりして…。

藤沢 私は毎年サウジアラビアにいくのですが、あそこはビジョンかはっきりあって、戦略的な人材育成をしています。

 サウジアラビアはモノカルチャーの国に見えますが、じつは移民の多い国です。サウジ人の9割近くが公務員で国に養ってもらい、移民が民間企業で働くという構図です。しかし、人口が増えてきて国が雇用を吸収できなくなり、民間でサウジ人を雇用しようという“サウダリゼーション”という政策が実行されていますし、国の最大の資産は、石油ではなく国民であると、人材育成に力をいれています。これがサウジの国家ビジョンです。

松田 教育も、そのビジョンに基づいて設計されているのですか。

藤沢 はい。民間で雇用を生むためには教育のレベルを高める必要があるので、いま5ヵ年で国家予算の25%を教育投資に使っています。

松田 25%! 日本では考えられない数字ですね。というか、先進国でも見たことがない。(編集部注:日本は平成20年度で9.1%で、先進国の中でも低い方。文科省『教育投資の現状』

藤沢 具体的にどんな教育をしているのかというと、一つは女性の教育です。女性が社会で活躍するという世界の流れを受けて、女子大の開学を進めています。

松田 意外ですね。

藤沢 敷地の大きさが山手線の内側くらいある大きな女子大もあるんですよ。なかには学生や先生たちが暮らす街があって、ショッピングセンターがあったり、先生の子どもたちが通う学校もある。さらにトラムまで走っています。

 他にも起業家を育成するための女子大があったり、科学技術に特化した女子大があったり。ちなみにいま人気ナンバーワンは電子工学の女子大。サウジにも、理系女子がいるんです。

藤沢 もう一つはグローバル教育です。サウジは教育レベルを上げるために世界中から優秀な先生を集めています。彼らの授業を理解するためには最低限の英語力が必要なので、英語が合格基準に達しなかった人もひとまず合格させて、一年は徹底して英語を学ばせます。そのうえで世界の最先端の授業を受けさせるというわけです。だからサウジの大学のキャンパスは、ものすごく国際色豊かですよ。

松田 イスラム教国は、もっと排他的なのかと思っていました。

藤沢 サウジはオイルの輸出が減ってきて、逆に国内消費が増えています。もうオイルだけで食べていける時代ではないという危機感が強く、国を開かざるを得ないのです。

 ただ一方でアイデンティティーを失ってはいけないという思いも強く、小学校から大学まで、カリキュラムの2割はアラビア語とイスラム教です。根っこのところは守ったうえで、同時にグローバル化やダイハーシティを進めようとしているようです。

 

奈良時代の日本は
グローバル社会だった!

松田 日本も外国の人にもっと来てもらえる環境になるといいのですが……。

藤沢 でも歴史を振り返ると、もともと日本は開かれた国だったんです。

 私の実家は奈良なのですが、奈良には752年に完成したと言われる東大寺の大仏があります。

松田 有名ですよね。

藤沢 あの大仏の台座はインドの絵なんです。3種類ある石段は、中国、韓国、日本の石がそれぞれ使われていて、開眼したときに目を入れたのはインドの僧侶で、お祭りではベトナムの音楽で踊りました。まさに世界の人たちの力を借りてつくったんです。

 そう考えると、本当は日本も多様性を認める文化を遺伝子として持っているはず。私はグローバル化のヒントも、そのあたりにあると思っています。

(取材・文 村上敬)
次回は7/18更新です。


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