主食はパスタだ。麺をやかんで茹でて、インスタントのパスタソースで和える。これをほぼ毎日食べている。たまにインスタントラーメンも食べる。

 音楽活動は、スタジオの練習と月1、2回のライブである。

 細身の体にスキニージーンズとTシャツ。目が隠れる長い前髪に、マッシュルームカットの髪が揺れる。訥々と語る拍子に、サラサラの髪から垣間見える瞳が、どきりとさせられるほど澄みきって光っていた。

食にまつわるエピソードがなく
取材は失敗と思われたが…

 拙いカメラの腕で、暗い部屋をうまいこと写すことができず、使える写真はわずかだった。切らしたら困るものを尋ねると、うーんと考えたあと、タバコを指さした。

「吸ってると空腹が紛れるんですよね」

 田舎の祖母のコロッケがおいしいので、東京では食べないことにしているとか、帰省すると親が毎日唐揚げやハンバーグを作ってくれ、たらふく食べるので5キロ太るというような話は聞き出せたが、さて困った。話が続かない。

 いくら食に興味がなくてもいいとはいえ、なにか食にまつわる思い出があるだろうとふんでいたら、早々に詰まってしまった。エピソードがないというより、今、彼の頭の中には音楽しかないようだった。

 自分の23歳を思い起こした。仕事や社会に慣れることに必死だった。今このときしか見えず、必死すぎて、脳みそに暮らしのことなど考える隙間がなかった。

 彼は、家賃とタバコ代と電気水道代以外のバイト代すべてを、CDとスタジオ代に当てている。メンバー全員、バンドのために大学卒業後、就職をしていない。そんな23歳に、過去のおいしかった思い出を振り返る余地などあるはずがない。

 それでも彼の台所が忘れられないのは、ガスの契約を切り、1年中即席パスタだけを食べている人に、「台所から人生を描く」と大風呂敷を広げてインタビューに乗り込んだ自分の甘さを恥じた、最初で最後の人だからだ。取材を始めて二十数人目だったと記憶している。