
作家としてのあなたは死んだも同然
主題歌明け。「聞いてますか? ヘブンさん」と錦織は「八雲さん」とは決して呼ばない。
「怒ってる? だから力貸してくれない」とヘブン。
いや、もう、ほんとに、この夫婦は自分本位である。自分たちが怒られているという被害者ムーブで、自分たちが怒らせている(悲しませている)という方向に目が向かないようだ。
ただ、実は感情的な問題でもないのだ。それを錦織がここで明かす。
錦織が知事に掛け合わないのは、ヘブンの才能、作家としての人生を終わらせたくないからだと言う。
錦織は、熊本に行ってからの著作をすべて読んでいた(本棚にあったからね)。
そのどれもが「日本滞在記」のような輝きがない、と忖度(そんたく)なく指摘する錦織。
そのあと、ヘブンのアップのほかにトキのアップもある。ここでトキの表情を映すのは、そのあと、錦織が「おトキさんに手伝ってもらって、どうにか書いているというじゃないですか」と言うからだ。トキでは不足だと錦織は暗に言っている。そしてトキもそれをわかっている。たぶん、ヘブンも。
「正直に言いましょう。今のあなたには、もうこの国で何も感じることができない。何も書くこともできない。幻想を見ていた。日本という国に夢を見ていた。だが、もうその夢から覚めてしまった」
錦織に詰め寄られ、ヘブンは逃げるようにトキのいるほうへ橋を下りていく。錦織はゆっくりと背後から追ってくる。
「フィリピン滞在記」は「日本滞在記」以上のものが書けたのではないか、と錦織は言う。ヘブンも書いてみたかったのでは、と。
ヘブンはさらに、トキを超えて、遠くへ逃げるように進んでいく。錦織はゆっくりゆっくり追いかけてくる。獲物を絶対に逃さない鋭さを持って。
「日本人になるということは、そういったことがすべて叶(かな)わなかった。つまり、海外でも書けない」
ここまで日本語、そのあとは英語になる。
「作家としてのあなたは死んだも同然。いや、死んだのです」
ここから英語なのは、トキに聞かせないという意思、すなわち、ヘブンと錦織だけの関係を強調しているようだ。いや、あまりにも痛烈だから、トキには聞かせられないのかもしれないし、トキに入る隙を与えたくないのかもしれない。この場面は非常にスリリングで、最高に盛り上がる。
言葉はわからないけど、トキが割って入ってくる。
「私のせいです。ごめんなさい」
ここではじめてトキが邪魔だなあと筆者は思ってしまった。トキも高石あかりも大好きなのに。
「ノーノーノー ママさん違います」とヘブンはかばう。
錦織は「無理は承知でイギリス人にはなれないだろうか」とトキに話を向ける。
「バカにするな!」とヘブンは声を荒げる(ここも英語)。
「書ける。必ず書ける」
「何が書けるんですか」
「あの美しい朝もやを見ても、何も感じられなかった人に、何が書けるんですか?」
錦織のこのセリフは聞いていて筆者は涙が出そうになった。これはなんの涙だろう。
「見てろ!私!雨清水八雲 私、日本人!書ける」と去っていくヘブン。
トキは錦織をちらと見てヘブンを追う。







