「なんでできないの!」――つい口にしてしまうこの一言が、男の子の学力を静かに蝕んでいるとしたらどうだろうか。進学塾VAMOS代表・富永雄輔氏の『男の子の学力の伸ばし方』では、男の子特有のプライドの仕組みを解き明かしながら、否定や命令に頼らず学力を引き上げる具体的な方法が紹介されている。本連載では、本書の内容から、子どもの計画・理解・反復・習慣のプロセスを体系化した「男の子の特性」に基づく学習法をお伝えしていく。(構成:ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)
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男の子が最も恐れるもの
「うちの子はプライドが高くて」と悩む母親は少なくない。
だが本書によれば、それは悩むべきことではなく、男の子の本能そのものである。
著者は、プライドとは自分を守ろうとする本能であり、自分が価値ある人間だと相手に認めさせたいという気持ちの表れだと述べる。
つまり、男の子のプライドは「弱さ」ではなく「生存本能」なのだ。
これは生物学的な進化とも関係しているという。強いオスが子孫繁栄の権利を持ち、弱いオスは消えていく――そうした自然界の原理が、男の子の心理に深く根づいていると著者は説明する。
だからこそ、「なんであなたはできないの!」「男なのに!」といった否定の言葉は、男の子にとって致命的なダメージになりうる。
著者によれば、男の子は鈍感な半面、傷つきやすい。その矛盾こそが男の子の本質だ。
男の子は、自分が劣っているのを認めるのが怖いと感じるようにできているのです。だから、自分の弱さを隠そうとするし、できないことを正当化するので言い訳が多くなりがちです。(『男の子の学力の伸ばし方』より)
言い訳が多い子どもを見ると、つい叱りたくなる。
しかし本書の視点に立てば、言い訳は弱さを隠そうとする防衛本能の表れだと理解できる。
否定するのではなく、良いところを「認めて」あげることが大切だと著者は強調している。
父親の「部下扱い」が逆効果になる理由
否定と並んで注意すべきなのが、指示や命令だ。
著者によれば、プライドが高い男の子にあれこれ指図することは、自尊心を傷つけ、反抗心へと変えてしまう傾向があるという。
とくに気をつけたいのが父親の関わり方である。
本書には、父親はなにかにつけて仕事モードになり、あたかも部下に接するように子どもにものを言いがちだと書かれている。「もっと頑張れ」「自分で考えろ」は、愛情ではなく圧力として届くこともあるのだ。
父親としては「よかれと思って」言っている。社会で戦う力をつけてほしいという願いがある。
しかし著者は、どやされた男の子の「うん、わかった」は納得のサインではないと指摘する。子どもは理解したのではなく、怒られないために従っているだけなのだという。
本書では、男の子は自分の存在価値を否定するような物言いに対して、徐々に敵対心を持つようになると述べられている。親子関係にヒビが入れば、学力を伸ばすどころではなくなってしまうだろう。
「幼さ」は最大の伸びしろである
では、否定も命令もせずに、どう男の子と向き合えばいいのか。
著者が提案するのは、「大人たちの手のひらの上で上手く転がす」という発想だ。
小学生の男の子は幼く、甘えん坊で、大人の目にはもどかしく映ることも多いだろう。しかし著者は、その「幼さ」にこそ大きな可能性が眠っていると語る。
小学生の男の子は、まだまだ甘えん坊です。しかし、その幼さこそが、あるとき大きな集中力を生み、ブレークスルーにつながります。(『男の子の学力の伸ばし方』より)
要するに子どもが「自分で決めた」「自分でできた」と思える環境を整えるということだろう。
本書全体を通じて著者が繰り返すのは、「できなかったことが自分の工夫や努力でできるようになる経験」こそが、男の子の学力と生きる力を同時に育てるという考え方だ。
否定で萎縮させず、命令で支配せず、認めることで自信を育てる。
男の子のプライドを味方につけることが、学力を伸ばす最短ルートなのかもしれない。




