「31年目以降」に先送りされた
大規模改修の費用負担問題
31年目以降の主な論点が「大規模改修」の費用負担だ。これは橋梁やトンネル、盛土など大規模な施設の取り換え、修復、改修を指し、東北・上越新幹線は開業49年を迎える2031~2040年度、山陽新幹線は開業56年を迎える2028~2037年度の実施を予定している。次の貸付料契約も30年間とするならば整備新幹線も大規模改修が必要になるだろう。
しかしながら、現行制度は大規模改修の費用負担、方法を定めていない。「確認事項」には、「31年目以降の取り扱いは『施設の状態に見合った維持管理等に要する費用』を根拠とする」との項目があるが、JR東日本は「解釈は明文化されていない」として、具体的にどのような制度になるのかは小委員会で議論すべきと説明する。
一方、ヒアリングでは「整備新幹線の大規模改修については、国や施設所有者である鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)が実施することが原則と認識しています」と主張しており、機構が費用を負担し、これを何らかの形で貸付料に反映させる仕組みを想定しているのだろう。
上下分離方式で行われる整備新幹線は、「下」にあたる鉄道施設は公共事業として整備され、鉄道・運輸機構が営業主体であるJRに貸している。これをJR西日本は「大家と店子」の関係に例え、賃貸マンションならリフォームやエアコン交換は大家が行うと表現する。営業主体はオペレーションの責任を持つが、走行する施設については基本的に、施設保有側が負担すべきとの主張だ。
機構は車両を除く全ての施設・設備を所有している。具体的に言えば、橋梁やトンネルはもちろん、変電所や信号設備、指令所、さらにレールや架線といったものまで含まれる。機構は開業までの工事を担当するが、鉄道を運行しながらの工事はJRしかできないため、開業後はJRが施工するというわけだ。
この関係性だけ見れば、大規模改修も条件は同じだが、現行の貸付料スキームは大規模改修が発生しない「30年間」に限定して構築された。言い換えれば、大規模改修の費用負担問題を「31年目以降」に先送りした。
大規模改修の費用は日常的な維持管理・修繕よりはるかに高額だ。前出の山陽新幹線は1557億円、東北・上越新幹線は約1兆円、東海道新幹線は約7300億円規模の工事となる。建設した時代や距離が異なるため単純比較はできないが、極端な例では、北海道新幹線新青森~新函館北斗間の貸付料は年間1.14億円、30年でわずか34.2億円であり、現行の貸付料の範囲で大規模改修の資金を賄えないのは明白だ。
上下分離方式にはいくつかのパターンがあり、相鉄・東急新横浜線など都市鉄道の整備(都市鉄道等利便増進法)は、営業主体が支払う使用料で建設費を償還する仕組みだ。しかし、整備新幹線の貸付料は施設を使用する対価であり、建設費に対して支払うものではない。
各路線の貸付料は機構にプールされて、建設中の新規区間に投下される。2025年度の貸付料は10線区合計で約690億円、これに国と地方の公共事業費計約1200億円を足したものが整備新幹線の基本的な建設財源であり、路線単位で決められているものではない。
大規模改修は資本的支出(固定資産の機能向上、耐用年数延長をもたらす支出)と位置付ければ、建設費と同様に貸付料プールから支払われるのが自然だ。ただ、JRの主張が認められれば、貸付料は現状より下がることはあっても増えることはない。その小さくなった財布から建設費と大規模改修費が出ていくなら、「大家」の経営はカツカツになる。







