価格高騰対策としての備蓄の放出は、需給のバランスというよりも、先物市場のプレイヤーとの心理戦でもある。21年の協調放出では、実際にはまだ放出していないにもかかわらず原油価格が急速に下がり、備蓄放出が正式に発表されると、逆に原油価格は上昇した。つまり、市場を動かす材料と化したこともあるのだ。

 そもそも海峡の封鎖とは、武力などにより通行が困難となる物理的な封鎖と、船舶へのリスクを含めた経済的・心理的封鎖があり、後者には保険・傭船料の高騰の影響などが含まれる。物理的に封鎖すればその回復には多くの時間を要する。まして機雷などが敷設されれば回復までの時間は見通せない。

 しかし、これまでホルムズ海峡は一度も長期的に封鎖されたことはなかった。1984年から4年間続いたイラン・イラク戦争でも、400隻以上の船が被害を受け保険料が高騰したが、完全封鎖とはならなかった。

 仮にホルムズ海峡封鎖でも、1~2カ月間は備蓄により数量的には不安なく供給されるが、その先の見通し次第では、これとは関係なく目に見えて上がっていくだろう。見通しとは、戦禍がいつ、どのようになったら終わるのかという終着点の明確さを指す。

 わが国で最も多く備蓄が放出されたのは東日本大震災の25日分だった。もし今後、1カ月を超える供給危機が起きれば、原油調達競争が激化し、さらに価格高騰プレッシャーとなる。

 万が一3カ月を超えるような事態になれば、生産調整にとどまらず、需要を適切に制限することが始まり、私たちの生活の広範囲に影響を及ぼす。1974年の第一次石油危機後の「狂乱物価」が日本の高度経済成長を終わらせたような、悪夢のシナリオである。

 こうなると日本経済は再び、エネルギー供給構造の抜本的な変革を迫られることになるだろう。