では、主観的な評価を実施しているケースを考えましょう。上司がこれまで「主観的に事後的な調整をしてくれる人」だという評判があれば、みなさんはどうするでしょうか。

 この従業員の実績に基づけば、12件しか回れないのは明らかに大雨のせいです。そのため、上司もその事情を勘案したうえで、業績を評価するはずです。そうであれば、実際に12件しか回れなかったことを、理由を添えて報告する可能性があります。

部下に信頼される上司の裁量が大きいと
風通しのよい職場が生まれる

 正確な情報伝達は管理会計では非常に重要視されます。管理会計はPDCAサイクル(編集部注/Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)を繰り返し、業務の効率化や目標達成を目指す改善手法)がキーワードになってきます。つまり、目標を立てて成果が出ても、それを活かすには正確な情報が必要になります。

 また、正しい情報が出ることは、正しい評価や意思決定につながります。

 先の例で上司はこの従業員の成果をみて、「よっぽどな大雨だから、ほかの従業員も良い成果は上げられないだろうな……」と推測することになります。そうすると、ほかの実績がない従業員に対しても、大雨の影響を考慮した、より正確な評価が可能になります。

 これを基に「大雨の日は外回りよりも、内勤で外回り用の資料を作ろう」という意思決定につなげられる可能性すらあります。会計が与えてくれるのはあくまでも情報で、その情報を使って意思決定をするのは人間です。このとき、正しい情報がないと良い意思決定はできません。

 もちろん、この例では「サボっていないはずだ」という過去の従業員の実績と、上司の評判が前提になっています。主観的な評価を機能させるには、上司と従業員の間の信頼関係が必要なのかもしれませんね。

 また上司と部下の関係を前提とした面白いエビデンスがあります。早稲田大学の金山隼人らの研究によれば、日本では飲酒習慣のある上司の下で働いた男性社員は、3年後の年収の増加率が上がり、5年後に昇進する確率も上がっているようです(Kanayama et al. 2025)。

 このとき、飲酒習慣のある上司はより適切に部下の配置ができていると議論しています。飲酒習慣による交流が、部下の飲酒の有無にかかわらず人材の配置や評価に適切な影響を与えている可能性があります。私はお酒が好きなので、個人的には嬉しいエビデンスです。

 さらに、神戸大学の高橋新吾らの研究では、マルチ・タスクに直面するときには主観的な評価でその仕事の内容を勘案できるので、インセンティブを強める方向に効果をもつというメリットも明らかにされています(高橋ほか2011)。

 このように、主観的業績評価は必ずしもデメリットばかりというわけではなさそうです。