ビジネスパーソン写真はイメージです Photo:PIXTA

生産部門はコスト高のために新しい機械の導入を断念したが、経営者はより良い製品を作るようにと現場に訴えかける。その結果、生産部門は古い機械のまま製品を作り、データを書きかえる製品不正が常態化していく――。このように、組織の一員として目先の正しさを追求することは、とんでもない危うさを孕んでいるのだ。※本稿は、中原 翔『組織不正はいつも正しい ソーシャル・アバランチを防ぐには』(光文社新書)の一部を抜粋・編集したものです。

組織が「合理的失敗」を
犯す2つの原因とは

 組織として「正しい」と考えていても、〈第三者〉によって組織不正として認めさせられてしまうことがあります。

 同時に、組織として「正しさ」を追い求めることが組織的な失敗につながってしまうこともありうるのです。

 例えば、組織がそれぞれの法令に適した方法で生産をしなければならないにもかかわらず、「これまでうちの会社では伝統的にこのやり方だったから」とかたくなに生産方法を変えようとしなければ、法令に適合しない製品が次々と生まれてしまいます。最悪の場合には、製品事故につながりかねないでしょう。製品事故がひとたび生じてしまえば、取り返しのつかないことになり、それは組織的な失敗と言わざるを得ません。

 組織論では、菊澤研宗先生(編集部注/経営学者。慶大名誉教授)が「組織は合理的に失敗する」と説明されています。ここで少し、この考え方を紹介しておきたいと思います。

 一般的に、組織は合理的に活動することによって物事を前に進めるのですが、合理的に失敗してしまうのです。なぜでしょうか。菊澤先生によれば、この合理的失敗は次の2つが原因となっているとされています。それらは、次のようなものです。

(1)たとえ現状が非効率的であっても、より効率的な状態へと変化・変革する場合、コストが発生し、そのコストがあまりにも大きい場合、あえて非効率的な現状を維持する方が合理的となるという不条理〈非効率性の合理性〉

(2)たとえ現状が不正であっても、正しい状態へと変化・変革する場合、コストが発生し、そのコストがあまりにも大きい場合、あえて不正な現状を維持隠ぺいする方が合理的となる不条理〈不正の合理性〉

(1)については、組織が非効率的な現状からより効率的な方向へと物事を進めようとしている時、そのコストがかなり大きくなってしまうと、非効率的な現状を選んでしまうということを意味しています。つまり、効率化することのメリットよりも、物事を変えるためのコストが大きくなると非効率なままの状態を選びやすいということです。

(2)については、組織が不正な現状からより正しい現状へと物事を進めようとしている時においても、そのコストがかなり大きくなってしまうと不正の現状を維持してしまったり、隠ぺいしてしまったりすることを意味しています。