構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。戦略とは何か。変化の時代に、企業は何を問い直すべきなのか。本連載では、さまざまな経営・組織の悩みをもとに、坂田氏に話を聞きながら、同書の思想を現在進行形の課題へと引き寄せていく

なぜ「うちの生成AI」は、効率化止まりで終わるのか?Photo: Adobe Stock

生成AIが「効率化止まり」で終わる理由

――生成AIを導入したけれども、現場はほとんど変わっていないという悩みを最近よく耳にします。なぜなのでしょうか?

 多くの企業で起きているのは、「生成AIを使うこと」が目的化してしまう現象です。

 本来、生成AIは手段です。目的は、組織や業務の在り方を変えることにあるはずです。

 しかし導入そのものがゴールになってしまうと、「少し効率が良くなった」で満足してしまいます。資料作成が早くなった、メールの下書きが楽になった。それ自体は良いことです。

 けれども、それだけでは本質的な価値は生まれません。

――では、生成AI導入に成功している組織は、何が違うのでしょうか?

 それは、リーダーが最初に何を「捨てる」かを決めていることです。

 生成AI導入は本来、二段階で進めるべきです。

 まずは捨てる。それから拡張する。この順番です。

 しかし、多くの企業では、生成AIを使ってまずは「拡張」しようとしてしまうケースが見受けられます。新しいツールを入れ、業務を増やし、組織を増やし、レポートも増やす。

 結果として、既存業務の上にAI業務が積み上がるだけになります。

 人間は仕事を作り出すことが得意です。新しいツールが手に入れば、それを管理する仕事が生まれます。分析結果をまとめる資料が増え、会議も増えます。

 だからこそ、最初にやるべきは「棚卸し」です。

 今ある業務を一つひとつ書き出し、「これは本当に必要か」と問い直す。そして不要だと判断したものは、捨てる。このステップをないがしろにしてはいけません。

成功する組織は、リーダーがまず「捨てる」決断をしている

――そうはいっても、捨てる決断は簡単ではありません。何かいいアドバイスはありますか?

 まずは、削減しやすいものから始めるのが現実的です。

 会議体、帳票、報告プロセスなどは、見直しやすい対象です。

 例えば会議には、基本的に「情報共有」「議論」「意思決定」の3つの目的しかありません。このうち、情報共有であればメールやドキュメントで代替できる場合が多いです。

 議論も、結果として何も生まれていなければ、実施する意味はないでしょう。そして意思決定がなされていない会議は、そもそもの設計が間違っています。

「その会議は何を決めるためのものなのか」「その時間と人数に見合う価値が出ているのか」を問い、明確な答えがないならやめる。

 そして、やめると決めるのは現場ではありません。リーダーです。

 現場に「やめるかどうか」を委ねるのは責任の放棄です。捨てる決断は、トップが責任を持って下すべきです。

――そこまでしなくとも、組織の形を変えれば、変革は進むのではないでしょうか?

 ダメです。一番やってはいけないのは、組織図だけをいじって満足することです。

 多くの組織では、「人が先にいて、仕事が後から生まれる」構造になっています。つまり、役割を変えても、人が残っていれば、その人の仕事は形を変えて残り続けます。

 だから組織図だけを変えても、業務そのものを見直さなければ、実態は何も変わりません。

 重要なのは、既存業務がどれだけ価値を生んでいるかを見極めることです。価値を生んでいないものは捨てる。捨てたことで生まれたリソースを、次の「拡張」に使うのです。

削減なくして拡張なし

――では、その「拡張」とは何でしょうか?

 強い事業を作るための投資です。リーダーはまず、「強い事業を作るために、何をしなければいけないのか」という問いに向き合うべきです。

 生成AIで効率が5%上がった。月100時間かかっていた資料作成が95時間になった。それだけでは意味がありません。その5時間を、どこに振り向けるのか。顧客価値を高めるのか。新規事業に使うのか。研究開発に回すのか。

 削減で生まれた余白を使って、最終的に価値を生み出さなければなりません。

 人は仕事を作り出すのが得意です。生成AIは、さらに仕事を増やす装置にもなります。だからこそ、意図的に削り、意図的に集中させなければならない。

 捨てることで生まれた余白を、どこに投資するのか。その方向性が定まっていなければ、拡張は価値になりません。

 生成AI導入に成功するリーダーは、AIの使い方から考えません。

「何を捨てるか」「どこに集中するか」「強い事業とは何か」という問いに向き合い、明確な答えを持って、最後に必要に応じてAIを使うのです。

 生成AIは、未来づくりをサポートしてくれる強力な道具です。

 しかし未来の方向性を決めるのはリーダーです。

 削減なくして拡張なし。ここから始めなければ、生成AIは単なる効率化ツールで終わってしまうでしょう。

――ありがとうございました。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。