望月さんと入江さん本当に重要なことは「反復」だけでは身に付かない

算数ができる子どもの中には、解き方をそのまま覚えようとする生徒がいる。ところが、応用問題になると途端に分からなくなる。難関校の受験生でも陥るこのワナから抜け出すためにはどうしたらいいのか。(ダイヤモンド社教育情報、森上教育研究所)

正しい図が描けない理由

森上展安[聞き手]森上展安・森上教育研究所代表

――望月さんが5月に講演会を行う予定ですので、詳しくは文末でご案内します。前回は「間違えること」の大切さについて語り合っていただきました。

望月 東大に多くの合格者を出す難関校では、作図問題、例えば図形が転がってできる範囲を作図して、その面積を求めなさいというタイプの問題がよく出題されます。光源の影を作図して、影の面積を求める問題もこのタイプです。

 公立高校では、定規とコンパスを使って作図せよという、作図が最終目的の問題が多く出題されます。中学入試でそのタイプは例外で、メインになるのは自分で図を描いて、描いた図の長さ・面積・体積などを計算しなさいという、いわば作図が前提の問題です。

――自分で図を描かないと問題が解けない。

望月 作図が前提でない問題は、問題文中に図が示されているので、補助線を引くにしても与えられた図の面積や体積を求めればよいのですが、作図が前提の問題では、時間を使って自分で描いた図が正しくないことが当然起こります。

 そうすると、図が正しくないわけですから、当然面積や体積が求められない、もしくは間違った答えを導き出す作業を強いられることになり、時間を使った上に正解が出るわけのない作業を続けるという、悲惨な事態が発生することになります。

 その問題をスルーしていれば得点できないだけですが、間違った図で計算を進めると、時間を失うという致命傷を負うことになる。正しい図が描けないということは、それだけ大問題なのに、難関中学受験生の中にも、そうした正しい図が描けない生徒がたくさんいます。教室に小5や小6で合流してくる生徒の中に、整数問題や文章題など、数に関する問題が相当できる優秀生がいますが、彼らの中にも図が描けない生徒が大勢います。なぜそんなことになるのか。原因は明らかです。自分で図を描くという勉強をしてこなかったから、です。

入江 そんな優秀な生徒さんでも描けないのですか。

望月俊昭(もちづき・としあき)望月俊昭(もちづき・としあき)
望月算数数学教室主宰。1948年北海道生まれ。二十数年にわたり大手塾で中高受験生のための算数・数学を指導したのち、難関中学受験のための少人数制の算数教室を主宰、入学後の中学数学の指導も行っている。著書に、『中学受験 超難関校合格! 頭のいい子にも勝てる 算数まとめノート』(ダイヤモンド社)、『算数プラスワン問題集』『高校入試ハンドブック』シリーズ(いずれも東京出版)など。1987年から月刊誌『高校への数学』(東京出版)に、98年からは『中学への算数』(同)で連載を執筆している。

望月 描けない。たぶん、数(代数)と図形(幾何)では、使う脳の部分が異なるからだと思います。算数オリンピックのファイナリストになるような生徒が正しくない図を描くのはごく普通のことです。私の教室には、算数オリンピックのファイナリストやメダリストが描いた、完全に間違った、正解が出るはずのない図のコピーが山ほどあります。

 自分で図を描いて自分の図で考えるという習慣を身に付けるのは、普通の塾ではかなり難しいのだと思います。正しい図を描く訓練というのは、正しくない図を描く時間が絶対に必要ですから。正しくない図を描いた生徒がいれば、その図のどこが正しくないかを考えさせ、自分で直す時間を与えて……と、かなりの時間と指導する側の根気が必要となります。

 一人ひとり間違え方が異なり、違う図を描くからで、正解の図を見せてしまって「こうなる」と示してしまったら何にもならない。生徒自身が自分で間違いを発見し、自分で正しい図を完成させていくまで待たなければならないわけです。

 教師から示された正解の図を一題一題そのまま暗記しようとする取り組みでは、図形問題に限ったことではありませんが、新たな問題を解くための本当の学力が付くようにはならない。指導する立場から言えば、生徒の間違いにとことん付き合う、ということですね。